金融・投資

2023.04.13

親世代も学びたい“金融教育” 10代、20代ができること・親ができることを知っておこう

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今回お話を伺ったのは…

盛永裕介さん

盛永裕介さん

早稲田大学大学院教育学研究科(教職大学院)修了。教職修士(専門職)。
大学院在学時、私立中高一貫校にて教壇に立つ。2021年4月に株式会社Japan Asset Management新卒1期生として入社。
JAM Academy塾長として年間2,000名以上の小中高生に金融教育プログラムを提供する。金融知識や分かりやすい資料づくりのノウハウを生かし、セミナー資料の作成のほか、セミナー講師としてマーケティング業務にも従事。
小学校教諭二種免許状、中学校教諭専修免許状(技術)、中学校教諭二種免許状(家庭)、高等学校教諭専修免許状(情報、工業)、証券外務員一種保有。
Twitter:https://mobile.twitter.com/u_ehu
JAM Academy:https://www.japan-asset-management.com/jam_academy/

今注目される金融教育とは

 2022年4月1日から成年年齢(成人年齢)が 20歳から18 歳に引き下げられました。民法第4条で定められている成年年齢には「一人で有効な契約をすることができる年齢」「親権に服することがなくなる年齢」という意味があります。成年に達すると親の同意がなくても、携帯電話の購入やクレジットカードの作成、返済能力が認められればローンを組んでの自動車購入などができます。自分の意思で様々な契約をすることができる一方で、悪徳商法などによる消費者被害の拡大が懸念されています。

 成年年齢引き下げにより、お金に関する知識や判断力などの「金融リテラシー」を早期に身につけ、身につけたリテラシーを基に行動することが求められています。金融経済教育推進会議 1) によると、高校生までに身につけるべき金融リテラシーは、 (ⅰ)家計管理、(ⅱ)生活設計 、(ⅲ)金融知識・金融経済情勢の理解・適切な金融商品の選択 、(ⅳ)外部の知見の適切な利用 、の以上4分野に分類できると示されています。 特に「(ⅲ)金融知識・金融経済情勢の理解・適切な金融商品の選択」については、2022年4月からの高校学習指導要領改訂で、家庭科の授業で「資産形成」の視点に触れるよう定められました。

 これまでは、高校家庭科(「消費・経済」)で収支バランスや家計構造など家計管理を理解する学習内容でしたが、高校家庭科に「資産形成」の内容が加わったことで、預貯金や民間保険、株式、債券、投資信託などのメリット・デメリットを理解する必要があります。金融商品等の理解を踏まえて、教育資金や住宅取得、老後の備えなどのライフイベントに加え、事故や病気、失業などリスクに対してどのように対応すべきかを考慮した上で経済計画を立てることが求められます。

 高校学習指導要領の改訂に伴い、小中学校の段階で金融教育に取り組む学校が増えてきました。北海道の私立中学校2年生では、総合的な学習の時間でキャリア教育と金融教育を関連付け、「社会に出る前に知っておくべきお金の知識」についての理解を深めています。全6回の授業のうち、筆者は5・6回目の授業を担当させて頂きました。自分の能力や特性を測定し、自分に合った職業を探すことを導入に、自分が思い描く将来の夢やライフプランを実現するためにはどのようなことが必要で、どのくらい費用がかかるのかを算出し、貯蓄計画を作成します。実際に貯蓄計画を作成してみると、「意外と自由に使えるお金って少なさそう」「なりたい職業の年収だけでは、理想のライフプランが実現できないかも」という声が上がりました。貯蓄計画を作ってみたことで、お金を「貯める」方法に加え、お金を増やす「投資」の必要性についてもよく理解できている様子でした。このように、金融教育は高校だけではなく、小学校、中学校にも取り組みが広がり、子どもたちにとって投資や運用について考える機会が今後も増えていくと考えられます。

10代から20代が資産形成としてできる手段とは

 10代から20代が資産形成を始める第一歩として、まずは「稼ぐ」ことから考えていきます。厚生労働省 2) によると、「日本では、2007年に生まれた子供の半数が107歳より長く生きる」と海外の研究を基に推計されています。平均寿命が延びる中、老後の必要資金がさらに増えることに不安を抱える人も多くいます。経済産業省 3) によると、100年以上の長い人生をより充実させるためには、自らの素養を発揮するための「社会人基礎力」を身につけ、技術革新やビジネスモデルの変化に応じて、専門スキルや社内スキルをアップデートし続ける必要があると見解を示しています。ライフプランに合わせてしっかりとお金を準備するために、「自己投資」で年収を増やすという視点を持つことが重要であると考えています。

 次に、「貯める」ことを考えます。貯金は、将来への支出や、まさかの時の備えとして役に立ちます。最近大人でも、「毎日の生活費をやりくりするのに精一杯で、なかなか貯金ができない」という話をよく耳にします。金融広報中央委員会が実施した調査によると 4) 、「貯金ゼロ」の世帯の割合は26.9%であり、4世帯に1世帯は貯金がない状態で生活をしていることがわかります。生徒に貯蓄計画の立て方の講義をする際、自分は今どのようにお金を使っているのかを把握させるために、直近1年間の収入と支出をワークシート上で「見える化」させます。すると、生徒から「なんとなく欲しいものはすぐに買っていた」「自分が思っていたより貯金する習慣がなかった」という声が挙がります。

 消費者教育支援センターが実施した調査によると 5) 、高校生を対象に、「どうしてお金を貯めるの?」という問いに対して、41.3%が「目的はないが、お金を貯めている」と回答しており、目的なく貯金をしている高校生が多く、社会人になっても目的を持って貯金する習慣が身についていない可能性が高いです。だからこそ家庭では、「なぜ貯金をするのか」について親子で話し合うことが必要であると考えています。目的もなく貯金をしていては、自分はいつまでにいくら貯金をすべきかがわからず、気がついたらお金を使ってしまっていた…ということが起こり得ます。まずは、欲しいものを買うためには毎月いくら貯金する必要があるのか、親子で具体的な行動計画を立てることから始めると良いでしょう。また、お小遣いもただ年齢が上がったから多くのお金をお子さんに渡すのではなく、なぜお小遣いが必要なのか、いくらお小遣いが必要なのかも親子で話し合って決めることが大切です。

 最後に、「増やす」ことを考えます。現在のような低金利の状態では、ただ「貯める」だけで資産を増やすことは困難です。資産を増やすためには、貯めたお金の一部を株式や債券、投資信託等の金融資産へ投資することを検討する必要があります。投資を始めるにあたって、まずリスクとリターンの考え方を正しく理解しなければなりません。昨今、「必ず儲かる、絶対損しない」という誘い文句で、若者を狙った投資詐欺や金融トラブルは年々増加しています。そんな美味しい話はありません。なぜなら、高いリターンを得ようとするとリスクは高まり、リスクを低く抑えようとするとリターンも低くなるという、リスクとリターンは表裏一体の関係だからです。リスクとリターンの関係を踏まえたうえで、投資をする目的に応じて、どれくらいリスクを取る余裕があるのかを考慮した金融商品の選択が大切です。

 初めて投資にチャレンジする場合、短期で売買を繰り返すのではなく、つみたてNISAを活用して、長期間にわたって投資を続け、リスクを抑えつつ平均的な収益を得ることができる「長期・積立・分散投資」という手法をお勧めします。
1)長期投資
 株式や投資信託は高い収益性が期待される反面、購入金額を下回り元本割れするリスクもあります。中高生に「投資って何でしょうか?」と聞くと、「短期で売買して収益を得ること」と回答がよく返ってきます。しかし、長期的な視点で資産を増やすためには、複利の恩恵を受けながら10年、20年と長期間保有することが重要です。これによって、株式や投資信託などの資産価値が変動するリスクを抑えながら、平均的な収益を得ることができるでしょう。
2)積立投資
 いきなり大きな金額を投資する場合、いつ商品を購入するのかタイミングを窺う場合が多いでしょう。しかし、市場の変動を完全に予測することは困難であり、タイミングを逃すことがあります。そこで、月に1000円、5000円、1万円といった無理のない金額を定期的に投資し、買うタイミングを気にせず自動的に投資を続けられる「積立投資」を行うことが大切です。この方法によって、市場の変動に左右されずにコツコツと資産を積み上げることができるでしょう。
3)分散投資
リスクを1つに集中させるのではなく、株式や債券、不動産などの資産の種類や投資先の地域、通貨を分散させることで、特定の企業や国の相場が変動しても、一定のリスクを低減することが期待できます。これによって、資産全体のリスクを抑えながら、安定した収益を得ることができるでしょう。一方、分散投資を行う場合には、投資先の選択や配分など、慎重な検討が必要です。

 「長期・積立・分散投資」は、投資初心者にもおすすめの手法であり、リスクを上手にコントロールできるという点で魅力的です。また、2023年1月1日から、18歳の人は一般NISA・つみたてNISAでの投資が始められるようになりました。学生のうちから、アルバイト代の一部をつみたてNISAで運用し、早いうちから投資を体験してみると良いでしょう。投資にはリスクがあることを忘れずに、自己責任で運用することが重要です。

 また、子どもに投資や運用への興味を持たせるためには、投資を体験できるゲームを活用することが有効であると考えています。太郎良 6) によると、短期大学における講義で株式の模擬売買を行うシミュレーションゲーム「株式学習ゲーム」を取り入れたことで、89.2%の学生が「以前より株式に関心を持つようになった」という結果が得られました。仮想の100万円で投資を疑似体験できるゲーム「トレダビ」や不動産投資をテーマとしたボードゲーム「モノポリー」を活用し、「なぜ株価が上がったのか」「なぜその不動産を購入したのか」など、子どもの「なぜ?」を親子で一緒に考えることで、投資や運用への興味を持たせるだけではなく、思考力を高めることも期待できるでしょう。

まとめ

 金融教育は、家庭で得られる知識・体験が多いと言われています。学校内外で子どもの金融教育の学習機会が広がる中で、保護者の方は子どもたちがどのような金融教育の内容を学ぶのかを事前に把握することが重要です。金融広報中央委員会発行の「金融教育プログラム『学校における金融教育の年齢別目標』【改訂版】 7) 」には、発達段階別に達成したい金融教育の目標がわかりやすくまとめられています。子どもが学校で勉強する内容を事前に把握することで、保護者の方が身につけておくべき知識も明確になります。また、子どもが学校で勉強した内容と照らし合わせることで、お小遣いの話はいつどのように行うのか検討でき、投資や運用について体験させてみるタイミングを捉えられるため、家庭が「学びの実践の場」として効果的に機能します。

 家庭で「学びの実践の場」を機能させることで、親子でお金の話をすることが当たり前になります。日本では未だに親子でお金の話をすることはタブー視されがちですが、親子でお金の話をすることは決してタブーではありません。寧ろ、家計の状況を共有することで、節約の大切さや教育費の負担感を実感させることができます。また、自分はどのような企業や資産にどれだけ投資をしているのかを共有することで、経済の動向を踏まえて子どもと一緒に投資について考えることができます。親子でお金の話をすることが当たり前になる環境づくりこそ、子どもたちにとって最高の教材になるのではないかと考えています。
出典:
1) 金融経済教育推進会議「金融リテラシー・マップ(2015年6月改訂版)」,pp.3-4
2) 厚生労働省「人生100年時代構想会議 中間報告(2017)」,pp.1
3) 経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力について(2018)」,pp.1-6
4) 金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[総世帯](2021)」
5) 公益財団法人消費者教育支援センター,公益財団法人生命保険文化センター「高校生の消費生活と生活設計に関するアンケート調査報告書(2017)」
6) 太郎良留美「短期大学における金融教育の試み-『株式学習ゲーム』による金融教育の効果-(2012)」,pp.29-34
7) 金融広報中央委員会「金融教育プログラム『学校における金融教育の年齢別目標』【改訂版】(2021)」
※本記事に掲載されている全ての情報は、2023年3月8日時点の情報に基づきます。
※あくまでも盛永さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。

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