よるかぶコラム

2025.10.03

東証システム障害から5年 市場間競争は道半ば

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2020年10月1日、日本経済にとって未曾有の出来事が起こりました。東京証券取引所(以下、東証といいます。)の株式売買システムで障害が発生し、終日売買が停止。その出来事から5年が経ちました。日本の証券市場はどこが変わり、何が懸案として残っているのか―。代替市場としての機能を期待されているPTS(私設取引システム)の立場から、この5年間を振り返るとともに、PTSを運営するジャパンネクスト証券が思い描く日本の証券市場の未来をお伝えします。

5年前、何が起こったのか

まずは5年前の出来事を振り返ります。

当日朝、東証の売買システム「アローヘッド」の機器に故障が発生して売買管理画面の使用や相場情報の配信などができなくなっていることが判明し、終日売買が停止されました。

東証の発表(20年10月19日)によると、機器の故障に加えて、マニュアルの不備により機器の自動切り替えが正常に行われなかったことがシステム面の要因としています。金融庁は同年11月末に出した業務改善命令で、売買再開に関する東証のルールが十分でなかったことも、当日中の正常化に向けた大きな支障になったと指摘しました。

(東京証券取引所の外観)

代替市場として期待されていたPTSですが、東証のシステム障害当日のジャパンネクスト証券PTSの売買代金(日中・夜間取引合計)は80億円を下回り、当時の1日平均(2千億~3千億円)の5%にも満たず低調でした。日本の証券取引の大部分を占める東証の売買停止に伴う影響を被った格好です。

下半期相場の初日で、日銀短観が発表された日に、日本の証券市場は丸一日、停滞する事態に陥ってしまいました。

ジャパンネクスト証券の歩み

ジャパンネクスト証券は、どのような取り組みをしてきたのでしょうか。

当社のPTSは東証のシステム障害が発生する前の19年8月、信用取引を開始しました。東証と比べて手数料が低く、呼値の刻みが小さいといった強みがあり、有利な価格で取引できる機会が提供できることから、売買代金は次第に拡大。23年1月に「価格優先」を個人投資家の最良執行方針とする制度変更が行われたことも、追い風となりました。

23年にはPTSの取引を支えるハードウェアを最新機器に入れ替え、約15%のレイテンシー性能の向上を達成し、東証のアローヘッドの公表値のおよそ10倍の速度での取引が可能に。同年8月には夜間取引市場の終了時間を23:59から翌朝6:00に延長して約21時間取引ができるようになり、投資家の皆様の利便性向上を図ってきました。

(データセンタ内のサーバー群)

25年1~9月の当社PTSの1日平均売買代金は4千億円を超え、東証システム障害があった20年からほぼ倍増しました。国内で最も歴史が長く、売買代金が最大のPTSである当社は、日本の証券取引全体の8%台後半のシェアを得るまでに成長しました。

5年間で東証や金融庁は何を行ったのか

さて、ここからは5年前の出来事を受けて、金融庁や東証はどのように対処してきたかを見ていきます。

東証は20年11月末に金融庁から発出された業務改善命令を受けて、売買停止・再開に関するルールや手順の整備、コンティンジェンシー・プランにおける売買再開基準・運用の明確化、情報発信の拡充などの取り組みを進めるとの方針を示しました。

一方、金融庁は22年1月、金融審議会の市場制度ワーキング・グループ(WG)の会合を開いて議論を求め、市場インフラ機能の向上のための一つの方法として、同庁が「市場間競争の促進は重要な課題」とする認識を示しました。WGは同年6月、PTSでの競売買方式の売買高上限の緩和、取引情報の公表を法令で義務付けることなどについて検討するよう求める中間整理を取りまとめました。

今年5月に施行した政令で、金融庁はPTSでの競売買方式の売買高の上限について、「全体の1%かつ個別銘柄の10%」から、「全体の10%かつ個別銘柄の20%」へと緩和しました。投資家の皆様の利便性を向上させてPTSの活用を図り、東証一極集中が続いている日本の証券市場で市場間競争を促す狙いがあるとされています。

レジリエンス強化の道筋は…

PTSは金融商品取引所全体の売買代金に占めるシェアが半年間の平均で10%を超え、かつ個別銘柄で20%を超えると、証券取引所へと移行する必要があります。

しかし、PTSが証券取引所に移行する際のルールは、いまだに具体化していません。一例として挙げられるのは、上場審査です。PTSでは現在、東証が上場審査した銘柄の取引が行われていますが、証券取引所が新たに発足した際の上場審査について、明確な方針が示されてはいません。仮に新たにできる証券取引所が上場審査を一からやり直すとなれば、移行に向けた障壁となることが考えられます。

米国には他の取引所の上場銘柄を上場審査なしで売買できるUTPという制度があります。日本でも市場間競争を促進する意味ではUTPの導入が不可欠だと考えられます。米国ではこの制度が効果的に働いた結果、ニューヨーク証券取引所(NYSE)、NASDAQ、Cboeの3大取引所、および中小の取引所が切磋琢磨して、世界の流動性の半分を占める米国市場を形成しているのです。

また、最良執行方針に関して制度変更が行われた後も、証券会社はシステムコストなどを理由にPTSに接続しないことが許容されています。投資家の皆様からの注文に対して、複数の取引施設の価格を比較して回送する最良執行方針は、厳格に運用されているとは言いがたいのが実情です。そのため、PTS各社がサービス向上などを通じて売買代金を伸ばす一方、東証が8割超という圧倒的な取引シェアを有する状況に変わりはありません。

真の意味での市場間競争を通じた日本の証券市場のレジリエンス(強靭性)強化の取り組みは、道半ばの状況にあります。

ジャパンネクスト証券が目指す未来

ジャパンネクスト証券は複数の取引施設による市場間競争が最大のシステム障害対策であり、日本の証券市場のレジリエンス強化につながると考えています。また、複数の取引所が切磋琢磨することで、米国の20分の1以下にとどまる日本市場の取引ボリュームを増やすきっかけになるとも考えます。少子高齢化と人口減少に苦しみ、経済の低迷が続く日本で「豊かな社会」を創り上げるためには、米国のように、良い企業が今まで以上に世界中から円滑に資金を調達できる環境の整備は欠かせません。

(ジャパンネクスト証券正面玄関に設けたロゴ)

当社は今後も投資家の皆様にさまざまな「チョイス」を提供してさらなるシェア拡大を図るとともに、証券取引所へと移行して日本の市場間競争の一翼を担う未来を思い描いています。当社は日本の証券市場のレジリエンス強化、さらには日本経済の発展に貢献する必要不可欠な存在になるべく、歩みを進めていきます。

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