金融・投資

2023.02.20

【2023年改正】最良執行方針が個人投資家の取引価格に与える影響を知ろう

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投資で利益を得るためには、できるだけ安く買って高く売ることができたほうがいいですよね。2023年の政令・内閣府令改正で「最良執行方針」が見直されることによって、証券会社には個人投資家に対して「価格優先」の取引を行うことがより求められます。

これまで、大半の証券会社は、「価格優先」を標榜していたものの、実際は個人投資家の注文を東証(東京証券取引所)のみに取り次いでいるだけでした。しかし今後は、複数の取引施設に注文を取り次いで価格を比較することが必要になります。個人投資家にとって、より有利な価格で取引ができるようになる改正です。
では、証券会社は個人投資家の注文をどこと、どうやって比較するのでしょうか。今回は、最良執行方針の見直しが個人投資家の取引価格に与えるメリットや、そのメリットを得るために個人投資家がすべきことを解説します。

最良執行方針ってどういう意味?

最良執行方針とは、証券会社が個人投資家の注文を取引する際に、最も良いと考える方法をまとめたものです。
2003年の証券取引法改正によって、証券会社には最良の条件で取引を行うことを定める「最良執行義務」が課されました。そして2005年4月1日より、証券会社各社は最良執行義務に基づいた最良執行方針を定めて公表し、実施することが義務付けられました。
それまで、日本では明確な形で最良執行義務が定められていなかったものの、証券取引法や民法といった法律によって、最良執行義務があると解釈されてきました。
しかし、最良執行義務についてしっかりとした規定がないのは規制として不十分だということで、最良執行方針を定めることとなったのです。
最良執行方針には、次のようなことが記載されています。

最良執行方針の主な内容

1.対象となる有価証券
 各証券会社で扱いのある、最良執行方針の対象になる有価証券の種類
2.最良の取引の条件で執行するための方法
 投資家からの注文をどのように取り次ぐのかの説明
3.当該方法を選択する理由
 2.の方法で注文を取り次ぐ理由
4.その他
最良執行方針は、各証券会社のウェブサイトなどで公開されており、誰でも見ることができます。一見難しそうですが、最良執行方針には「投資家の注文を最良の条件で取引できるようにします」ということがまとめられているというと、わかりやすいでしょう。

2022年5月に、金融商品取引法に関連する法令や内閣府令が改正されたことを受けて、最良執行方針が見直されることになりました。これにより、
・個人顧客の規制
・SOR(スマート・オーダー・ルーティング)の規制
が、最良執行方針に盛り込まれます。

個人顧客の規制

個人顧客(個人投資家)からの注文の執行が、「最良の価格」以外の理由で行われる場合、証券会社は最良執行方針にその旨と理由を記載することが求められています。

SOR(スマート・オーダー・ルーティング)の規制

SORは、複数の取引施設の価格を比較して、最良の取引施設を自動的に選ぶ注文方法です。SORを利用する場合は、SORを用いることを最良執行方針に記載することが求められています。

政令・内閣府令改正で「最良執行方針」が新しくより明確になった

今回の改正の背景には、PTS(私設取引システム)やダークプール(証券取引所を通さず、投資家の注文を証券会社内でつけあわせて取引を行うこと)といった、個人投資家に有利となる可能性のある取引施設が普及してきたことがあります。
ところで、最良執行義務の「最良」とはいったい何でしょうか。
確かに、証券会社には最良執行義務がありますが、法律や法令で「これが最良」とする取引の条件は定められていません。
証券会社各社の最良執行方針には、多くの場合、
「最良執行義務は、価格のみならず、コスト、スピード、執行の確実性等さまざまな要素を総合的に勘案して執行する義務となります。したがって、価格のみに着目して事後的に最良でなかったとしても、それのみをもって最良執行義務の違反には必ずしもなりません」
といったただし書きがあります。
つまり、証券会社が執行する取引は価格だけでなく、いろいろな要素を考慮しているので、仮に最良の株価で取引が成立しなくても、証券会社は最良執行義務に違反しない、ということです。
しかし、冒頭でお話ししたとおり、大半の証券会社は、個人投資家の注文を東証にしか取り次いでいません。
東証のほかにも、取引施設はあります。
たとえば、証券会社が運営するPTSでは、証券取引所を経由しないで、証券会社の用意したシステムを利用して株式の売買ができます。また、ダークプールでは、証券会社内の投資家の買い注文と売り注文をつき合わせて株式の売買ができます。
つまり、最良執行方針の規制を見直すことで、証券会社に個人投資家に対しても複数の取引施設の価格を比較する「価格優先」の取引を行うことを求めているというわけです。

対象となる証券会社と投資家は?

今回の最良執行方針の改正の対象になるのは、個人投資家の注文を取り次ぐ証券会社です。この改正の前から、ネット証券のSBI証券・auカブコム証券・マネックス証券・楽天証券では、複数の取引施設の価格を比較するSORの注文に対応しています。
SORを利用することで、自動的に複数の取引施設のなかで、個人投資家にとって最も有利な価格で取引できるようになっています。
個人投資家にとってみれば、SORを利用することで安く買って高く売るという価格改善の機会になることが期待されます。

個人投資家の取引価格はどうなるのか

従来の最良執行方針では、個人投資家に最良と考えられる取引を提供することをうたっていながら、東証にしか注文を取り次いでいなかったことをお話ししてきました。最良執行方針の見直しによって、SORの準備ができていない証券会社は、急ぎ準備をする必要があります。改正された政令や内閣府令などは、2023年1月1日に施行されますが、1年間の経過措置があります。この間にSORの準備を行うことになるでしょう。
したがって、個人投資家からすれば、すでにSORの設定ができる証券会社を選んだ方が得だといえるでしょう。

SORの有無で取引価格はどう変わる?

(株)Money&You作成

日本ではジャパンネクスト証券(JNX)・Cboeジャパン・大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の3社がPTSを運営しています。
なかでも、シェアが大きいのはジャパンネクスト証券。ジャパンネクスト証券では、日中取引(デイタイム・セッション)だけでなく夜間取引(ナイトタイム・セッション)も可能。日中は仕事や家事などで忙しいという方でも、夜間に株式投資ができます。また、PTSでは、東証で約定機会がない銘柄が約定したり、東証とは違った価格で約定したりすることもあります。
SORが導入されると、東証と合わせて最大4つの取引施設の価格が比較され、個人投資家にとってもっとも有利な「”真”の最良価格」で取引が成立するようになります。個人投資家は、SORを利用するだけで株の売買価格がより有利になるのですから、嬉しい改正だといえるでしょう。
SORを利用してお得になる金額は、それほど多くないかもしれません。しかし、個人投資家にとっては、SORが利用できた方が有利になることでしょう。
SOR注文に対応しているSBI証券・auカブコム証券・マネックス証券・楽天証券で証券口座を持っている個人投資家の皆さんは、SOR注文を行い、有利な価格で取引することをお勧めします。
これから、証券口座を開いて投資をスタートしたいと考えている方は、SOR注文ができる証券会社を選ぶとよいかもしれません。価格比較の上、より有利な取引を行うのが個人投資家にとって大切な視点だといえます。
※この記事に出てくる注文方法は、あくまでも頼藤さんが選び方として紹介するものであり、ジャパンネクスト証券株式会社が特定の注文方法を推奨しまたは取引を誘引するものではありません。
本記事に掲載されている全ての情報は、2022年11月30日時点の情報に基づきます。

今回お話を伺ったのは…

頼藤 太希さん:
(株)Money&You代表取締役/経済ジャーナリスト。中央大学客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に(株)Money&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『FP Cafe』や『Mocha(モカ)』を運営すると同時に、資産運用・税金・Fintech・キャッシュレスなどに関する執筆・監修、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『はじめての資産運用』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書多数。日本証券アナリスト協会検定会員、ファイナンシャルプランナー(AFP)、日本アクチュアリー会研究会員。

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