金融・投資

2024.01.18

2023年後半は“中国を除く新興国株”に注目? 投資を成功に導くポイントを解説

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このコラムでは、中国、インド、インドネシアやブラジルといった“新興国”の株式の市場動向、リスクとリターンの関係、個人のポートフォリオに組み入れる意義などを解説していきます。株式に投資した経験の有無にかかわらず、役に立つポイントをわかりやすくお伝えします。

今回お話を伺ったのは…

真壁昭夫(まかべあきお)さん

真壁昭夫(まかべあきお)さん

多摩大学特別招聘教授。1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。著書は「下流にならない生き方」「行動ファイナンスの実践」「はじめての金融工学」など多数。
https://www.tama.ac.jp/guide/teacher/makabe_akio.html

中国不動産バブル崩壊で負の影響…新興国株上昇の兆しは?

年初来、新興国の株価の上昇率(主要な株式インデックスの変化率)は日米など主要先進国を下回りました。要因は多くあります。中でも、中国不動産バブル崩壊の負の影響は大きいものでした。短期的に中国経済の減速懸念などを背景に新興国の株価が調整するリスクはあります。一方、中長期的に、経済成長率に沿って新興国の株価上昇の可能性は高いと考えられます。
日本株であれ新興国株であれ、投資の鉄則は“安く買う”につきます。株は相場が上昇している時よりも、下げている時に買うべきです。株価の上昇を追いかけると、どうしても高値掴みをしがちです。以下の内容が、皆さんにとって新興国など海外株式に目を向け、無理なく、自己責任で投資の選択肢を増やすきっかけになれば幸いです。

2023年、年初来の新興国株の動向

世界各国の株式インデックスを算出する企業のMSCIによると(※1)、2023年の年初から8月末までの間、世界全体(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)の株価は、14.80%上昇しました。先進国の株価(MSCIワールド・インデックス)は16.11%上昇、新興国(MSCIエマージング・マーケット・インデックス)は4.55%上昇しています(株価変化率は米ドルで統一)。
主な国ごとに株式市場の推移を確認すると、主要先進国では米国、その中でも「エヌビディア(NVIDIA)」のようなIT先端銘柄の上昇が顕著でした。“チャットGPT”など人工知能(AI)の成長期待という、ある種の夢が膨らんだのです。また、米国ではコロナ禍対策としての失業保険の特例措置などによって家計の貯蓄が増え(過剰貯蓄)、個人消費も緩やかに増えました。それらを追い風に米国の株価は上昇し、先進国株式市場の上昇をけん引しました。
一方、米国に続く世界第2位の経済大国の中国では、不動産バブル崩壊によって景気減速が鮮明化しました。それによってアセアン地域など多くの新興国の輸出は減少し、企業業績の先行き懸念も高まりました。中国を中心に新興国の株価上昇率は先進国を下回りました。

「新興国株」とは?

次に、新興国株式の特徴を確認します。新興国とはどのような国か、世界共通の単一の定義はありません。国際通貨基金(IMF)は三つの基準で新興国を分類します。まず一人当たりの所得です。2023年4月時点でIMFは155の国と地域を新興国に分類しました。2022年の平均的な一人当たりのGDP(国内総生産)は約12,042ドル(1ドル=148円で178万円)でした。
二つ目に輸出品目が多岐にわたるか否かです。鉱山資源などから自動車やデジタル家電など、多種多様な輸出品目があるか否かは経済の成長と強く関係します。三つ目は世界の金融市場とのつながりの強さです。外国人投資家に対する規制の強弱などを指します。
新興国とは、現時点で一人当たりの所得は低いが、中長期的な経済の成長期待は高い国・地域と考えればよいでしょう。長期的に、株価は経済成長率に連動します。GDPでみた経済の成長期待が高い分、株価上昇の可能性も高まります。新興国株式に投資する狙いは中長期的に、先進国を上回る利得(株価上昇や配当)を目指すことです。
一方、新興国株式のリスク(予想と異なる結果のこと)は高い傾向にあります。企業のドル建て債務の増加(ドル高、金利上昇に弱い)や、中国のように民間企業に対する締め付けの強化(政策の不透明感)などは、主たるリスク要因です。ロシアや一部の中国の企業のように米国などの制裁対象に指定され、株式の取引ができなくなることもあります。

年初来の新興国株の上値抑える要因

2023年の年初来、新興国株の上値が重かった要因の一つに、中国の経済成長率低下があります。リーマンショック後、中国の政府は4兆元(57兆円程度)の景気対策を実施しました。高速道路、鉄道、不動産(マンション)などへの投資は急増しました。
2011年中ごろまで中国は、10%台の高い経済成長率を維持しました。建設推進のため、中国は世界からエネルギーや鉱山資源などを大量に輸入しています。銅など資源の価格上昇、輸出増加によって、多くの新興国で経済成長率は上向きました。
その後、徐々に中国経済の成長率は低下しました。特に、2020年8月、共産党政権が不動産融資規制を厳格化したことをきっかけに、不動産バブルは崩壊したのです。住宅価格は大きく下がり、「中国恒大集団(エバーグランデ)」など不動産業者の株価は下落しました。
土地の利用権を不動産業者に売却して歳入を確保した地方政府の財政も悪化しました。大規模な経済対策は打ち出しづらくなりました。不動産関連の需要は中国のGDPの30%近くを占めるとの試算もあります。不動産バブル崩壊によって中国の景気減速は鮮明化しました。アジア新興国などで輸出は減少しました。米欧や一部新興国の中央銀行が物価安定のために利上げなどを行い、金融を引き締めたことも新興国の株価に負の影響を与えたのです。

IT関連分野がカギ!? 今後の新興国株式市場の見通し

短期的に、新興国の株価が調整するリスクはあります。中国ではエバーグランデなど不動産デベロッパーの経営に対する懸念が高まっています。地方政府傘下の企業、「地方融資平台」の債務不履行リスクも高まりました。共産党政権の不良債権処理も思うように進んでいないようです。いずれ中国の景気は底を打つでしょうが、時間はかかります。1990年代後半にわが国が経験したように、デフレ圧力が高まり中国の景気は長期に停滞する恐れもあります。米欧などで金融引き締めが長引く可能性もリスク要因です。
中長期的に、国により差はあるでしょうが、新興国の株価が上昇する可能性は高いでしょう。例えば、足許、インドの景気は比較的しっかりしています。インドは中国を追い抜いて世界最大の人口大国に成長しました。地政学リスクへの対応や人件費の低さなどを要因に、中国からインドなどに生産拠点を移す企業も増えました。人口、投資の増加は経済成長にプラスです。
産業別に考えると、多くの新興国でIT関連分野の企業業績は拡大するでしょう。スマホ、高速通信をささえる基地局(アンテナ)の普及によって、新興国のデジタル化はわが国が経験したことのないスピードで、加速度的に進みます。半導体、電気自動車(EV)、AIの普及策など、産業育成策を強化する新興国も増えました。人口増によって、飲食、宿泊、交通などサービス分野の需要拡大期待もあります。

まとめ

投資の鉄則は、対象の資産を、可能な限り安く買うことです。ゆとりのある範囲で、金額とタイミングを分散し、新興国株を買う。長期間保有し高い利得を目指す。“人生100年時代”を迎える中、わが国の個人の資金運用にとって新興国株式の重要性は増すはずです。
その際、中国を含め新興国全体を買うか、国や企業を選別して資金を投じるか、を考える意義も高まるでしょう。世界の主要投資家の中には、“中国を除いた新興国株”を対象にポートフォリオを構築する者が出始めました。中国経済の高度成長期は終焉を迎えたとの見方、台湾問題、半導体など先端分野での米中対立などの懸念が理由です。中国経済の先行きが不安な場合、中国を除いた新興国株式ETF(上場投信)などの活用も検討対象になるでしょう。
また、自分で経済成長率や人口動態、産業の動向、企業業績を調べ、特定の国のインデックス、個別の銘柄に投資することもできます。そのために証券会社のウェブサイトなどを活用し、景気の動向や主な企業の事業運営状況などに関するかなり詳細なデータや情報を入手することも可能です。このようにしてご自身にとって安心でき、納得のいく新興国株式の投資スタンスを確立することは、リスクを抑えてリターンを高める方策の一つになるはずです。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2023年10月23日時点の情報に基づきます。
※あくまでも真壁昭夫さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。

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