金融・投資

2023.04.13

“板読み”を正しく理解!値動きを読むためにおさえたいポイントとは

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株式投資をする人の多くが、注文時に「板」を見ながら発注しているかと思います。株式注文を出す時に「板情報」はとても重要です。しかし、板について詳しく知っている人はどのくらいいるでしょうか?そもそも板とはなぜ必要なのか、板情報の見方や使い方などを詳しく解説します。

今回お話を伺ったのは…

西崎 努(にしざき つとむ)さん

西崎 努(にしざき つとむ)さん

2007年に日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)に入社、CFP資格も保有する全国トップセールスとして活躍し、その後海外研修に抜擢。帰国後はECM(エクイティ・キャピタル・マーケット)で公募増資等の株式引受業務に従事する。2017年4月に独立し、リーファス株式会社を設立。
金融商品の仕組みはもちろん、運用実務、大手銀行や証券会社の販売手法まで熟知したアドバイスが好評。楽天証券メディア「トウシル」ではコラム連載やYouTubeにレギュラー出演する他、メディアヘの寄稿多数。東証JPXで講師を務めるなど、外部講師の経験も豊富。
著書に「60歳を過ぎたらやってはいけない資産運用」「老後資産の一番安全な運用方法 シニア投資入門」がある。
HP:リーファス株式会社 (https://refas.co.jp)

板とは何か

初心者がよく知らない”板(いた)”とは?

 「板」とは、株式注文をする際の買い注文と売り注文を表したものです。買いと売りの指値を気配や気配値(けはいね)と呼びますが、この気配値を順番に並べて整頓したものを板と呼びます。
 昔は、立会場(たちあいじょう:証券取引所で会員が一定時間に集まって売買を行う場所で、場立ちと呼ばれる証券会社の市場部員と注文の媒介業務を取り仕切る才取り会員が売買を成立させていた)に黒板である「ボールド」にチョークで売買注文を銘柄ごとに書いてあったことが「板」の由来のようです。1974年ごろに証券取引所で相場報道システムが稼働し、立会場の株価表示がコンピュータ処理による電動式掲示板になりました。
 今では証券会社が提供する投資情報ツールを利用することで、パソコンやスマホを使って手軽に見ることができるようになっています。証券口座を開設さえしていれば無料で利用ができ、多くの投資家が板を見ながら株式売買をしています。

板からわかる情報(板情報)とは?

 「板情報」には、証券取引所に出された売買注文の価格と数量が表示されています。板の左側には銘柄の売りの数量、右側には買いの数量、真ん中には気配値が表示されており、今いくらの株価でどのくらいの株数を売買できるのかを知ることができます。取引時間の場中(前場9:00-11:30、後場12:30-15:00)であれば、リアルタイムに売買が成立(約定)しています。
 なお、取引の始め=寄り付きと終了時=引けに約定株価を決定することを「板寄せ」と呼びます。その時点で出ている注文が板に表示され、まずは成行注文(株価を指定せずに買えるもしくは売れる価格で注文を出すこと)を優先し、その次に高い買い注文と安い売り注文をつき合わせて、株数が合致する株価(約定価格)を決めていきます。
 これに対して、取引時間中(ザラ場)に、気配値をもとに株価と数量をつき合わせて約定株価を決める方式を「ザラ場方式」と呼んでいます。ザラの語源は一般的に「ザラにある普通の場」と言われており、それが現在では取引時間中の時間を表す用語として使われています。 また、ザラ場中であっても売買の注文が集中して過度な注文数量がでてくるなど混乱した場合には、一時的に売買を中断して「板寄せ」によって約定価格を決める場合もあります。

※ネット証券の板情報画面

◆板が厚い、薄いとは?
 株式の注文は、買いたい人と売りたい人の株価と数量が合致することで約定することになります。しかし、どんな銘柄であっても必ず売り買いが成り立つとは限りません。売買が活発な銘柄なら心配することはありませんが、普段あまり売買がされていない銘柄であれば、買いたいと思っても売り手がいなくて買えなかったり、高値で売りたくても買い手がいないということもあります。例えば、10,000株の買い(売り)注文を出そうとしても、板を見て売り(買い)注文で10,000株以上の売数量が出ていなければ注文は成り立ちません(価格はわかれていても良い)。場合によっては、自分が出した注文によって株価が急激に変動してしまう可能性もあるので要注意です。

※ネット証券の板情報画面

◆板の値動きは見た目より早い
 現在の板はコンピュータが高速処理しているので、目には見えないほどのスピードで売買がされています。証券会社が提供する投資情報ツールでも、毎秒更新などをしていますが、実際には目で見える情報以上の売買が行われています。そのため、売買が非常に活発な時には、注文が間に合わないということもあります。

◆約定の基本ルールは「価格優先、時間優先」
 注文については以下のような基本ルールがあります。
価格優先の原則:買い注文であれば、より高い価格、売り注文であれば、より安い価格から優先的に約定します。成行注文は指値注文より優先されます。
 時間優先の原則:同一価格の注文は、先に注文したものから優先的に約定します。

◆見せ板には要注意
 板を見ることで株式の売買可能な情報を知ることができますが、あくまで現状を表すものであって株価動向を知れるものではありません。特に、買い注文や売り注文を誘発する目的に架空注文を出して偽装する「見せ板」というケースも散見されるので要注意です。

なぜ板が必要なの?

 株式を売買しようとしても、現在の株価がわからなければ話になりません。昔は証券会社にその都度問い合わせをしたり、新聞の株式欄などで日々の値動きを確認することが一般的だったようです。いまではネット検索をするだけでも株価を知ることができ、株式投資が非常に身近で取引をしやすいものになりました。
 しかし、現在表示されている株価は最後に約定した価格であって、実際に売買できる株価とは限りません。そこで必要とされるのが「板」です。板に表示されている情報を見ることによって、自分の注文が成立しそうなのかどうか、注文によって株価がどう動くのかを予測することができます。

実際の板の読み方・使い方

注文時の使い方

 株式注文を出す際に、今の株価を知っているだけでは情報が足りません。なぜなら表示されている株価は基本的に最後に約定した価格であり、実際に売買できる価格なのか、いくらの数量(株数)なら売買できるかはまた別だからです。そこで、板情報をみることで、いまの売買情報を知ることができます。
 売買可能な株数は表示されている通りですが、売買可能な価格の単位は銘柄や株価によって変わります。この価格の単位を呼値といいます。

呼値(呼び値、よびね)について

 「呼値」とは、株式を売買する際の価格の刻み幅のことで、1株に対して注文できる最小の値幅(刻み値)です。呼値の幅はその銘柄の株価によってかわります。「呼値の単位」が以下の表のように決まっていますが、TOPIX100構成銘柄とその他銘柄によっても値幅は違うことがわかります。

※日本証券取引所グループより、2022年10月31日以降の呼値の単位

 表のように、株価の水準がかわると呼値の幅もかわります。これまで1円単位で売買されていた銘柄の株価が30,000円を超えた場合は値幅が5円単位になるため、それまでと同じように取引をしていると、思わぬ高値(安値)で約定する可能性があるので注意が必要です。
◆PTS市場の呼値
 PTS取引の場合、呼値の単位は取引所取引の呼値の10分の1~1,000分の1(TOPIX100構成銘柄を除く)で売買がされています。そのため、投資家にとっては、売り・買いともにより有利な価格で取引できる可能性があります。証券会社で株式注文をしようとすると、東証等の板情報とPTS市場の板情報があわせて表示できる場合があります。この場合は、両市場の板情報があわせて表示されるため、東証等の呼値と異なる気配値が表示されることがあります。
◆呼値の値幅制限
 呼値はザラ場中に動く値幅が決められており、これらを更新値幅、制限値幅といいます。呼値の値幅制限は、あまりにも急激な株価の変動による投資家のパニックや、不測の大きな損害を防ぐために設けられています。1日の値幅の上限まで株価が上がることをストップ高、下限まで下がることをストップ安といい、基準となる株価は一般的には前日の終値が採用されており、基準株価から±15〜30%程度の値幅に制限されています。

※日本証券取引所グループより

◆値幅制限の拡大
 株価が2営業日連続でストップ高(安)になった場合に一定条件下で翌営業日から制限値幅が拡大されることがあります。ストップ高の場合は上限が、ストップ安の場合は下限が4倍まで拡大します。その条件は以下の通りで、該当銘柄に措置を適用する場合は日本証券取引所がマーケットニュースで随時発信しています。
 (1)ストップ高(安)となり、かつ、ストップ配分も行われず売買高が0株
 (2) 売買高が0株のまま午後立会終了を迎え、午後立会終了時に限りストップ高(安)で売買が成立し、かつ、ストップ高(安)に買(売)呼値の残数あり

◆特別気配の表示
 売買注文の需給が一方に偏り、呼値が価格の継続性維持の観点から適正と認める範囲外と判断された場合に、その状況を周知するための気配を表しています。

◆注意気配
 直前の約定価格から一定幅以上に離れた注文が出された場合などに、価格の継続性維持の観点から、直前の約定価格により近い注文を呼ぶことを目的として表示されます。

◆連続約定気配
 大口の注文によって、連続約定が起こり株価が更新値幅の2倍を超えて買い上がる(売り下がる)場合に、当該価格に連続約定気配を一定時間表示して、瞬間的に株価が急変動することを投資家に周知し、価格変動を相殺する注文を喚起するために表示する気配のことです。

 その他にも投資家が証券取引所を通じて、安定した取引を実行できるように様々な取り組みがなされています。

知っておきたい記号や表示の意味

 板情報には、株価・呼値・気配値の他にもさまざまな記号が表示されています。それによって、画面上で様々な情報を簡単に知ることができるようになっています。証券会社によって表示されるマークに多少違いはありますが、意味することは同じです。利用するツールによっての表示の違いは使いながら知れば良いでしょう。
(例)一部を記載
「特」:特別気配の表示
「S」:ストップ高、ストップ安
「A」:注意気配
「K」:連続約定気配
「寄」:取引開始前(前場、後場寄り)の気配
「引」:取引終了時(前後、後場引け)の気配

板の情報を使いこなすポイント

板情報をうまく活用することで、取引の活発な銘柄を探すことが容易になったり、自分の投資金額にその銘柄が適切かどうかを知ることができます。しかし、株価動向を知るためには板情報よりも株価チャートや決算情報などを利用するべき場合もあるので、何のために利用する情報なのかを正しく理解しなければいけません。

初心者が読みこなすための練習方法

 板情報は株式投資をする際にはぜひ知って頂きたいことがたくさん表示されていますが、ザラ場中にただ情報を見る前に、まずはいくつかタイミングや条件を絞ってみることから始めてみて下さい。おすすめの練習方法は以下の通りです。

・前場や後場が始まる「寄り」や、終わる「引け」のタイミングで板情報の推移をみる
・その日のストップ高(安)銘柄を検索して、その銘柄がどんな理由で上昇(下落)しているのかをみる
・売買が活発な銘柄と、それほど売買されていない銘柄について、市場別の売買動向などを比較してみる
・銘柄や事情にインパクトがある情報がでた前後の板情報の変化をみる
・新規公開株(IPO)の上場後、公募増資・売り出し(PO)の発表後や条件決定日、受渡日をみる
・気になっている銘柄の板情報がどのように変化して株価が動くかを1日中リアルタイムでみる

 板情報には有用な情報がたくさんありますが、まずは慣れることから始めましょう。

プロが見る視点、活用法

 板情報を知ることは、株式の「注文を出す際」に非常に有用です。銘柄の流動性や直近の値動きを予測することに利用できるため、銘柄選びや売買のタイミング、成行か指値かなどの判断に役立ちます。
 その一方で、板情報は単に現状での注文数量や株価を表示しているものであって、それだけで株価動向を予測するのはおすすめできません。単純に買い板が厚いから上昇する、薄いから下落するというわけではありませんし、寄りの時間では「見せ板」などのダマシ(のつもりはないかも知れませんが)が表示されているケースもなくはありません。
 板情報の基本的な見方や利用方法をきちんと理解し、必要に応じてチャートや企業情報など様々な情報を調べて組み合わせたうえで、最終的な投資判断をするようにしましょう。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2023年1月26日時点の情報に基づきます。

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