はじめに
毎年春(4月)と秋(10月)に行われる日経平均(日経225)の「定期見直し(銘柄入れ替え)」は、指数に連動するETFや投信の機械的な売買を誘発し、短期的な価格変動を生みやすい大きなイベントです。
2025年10月実施分ではSHIFT(3697)が採用、シチズン時計(7762)が除外と発表されました。初心者でも押さえたい基礎から、資金フローの読み方、実践のコツまでをサクッと解説します。
日経平均 銘柄入れ替えの仕組み
日経平均は、東京証券取引所プライム市場の代表225銘柄を単純平均・価格加重方式(株価の高い銘柄の影響が大きい)で計算する日本を代表する株価指数です。
採用の対象は、東証プライム上場の普通株。定期見直しは毎年4月・10月の第1営業日に行われ、変更を決定する基準日はそれぞれ1月末/7月末です。選定では、過去5年の売買代金と売買代金当たりの価格変動率(高値÷安値÷売買代金)で流動性を測り、上位450銘柄を「高流動性銘柄群」と定義。そのうち未採用で流動性上位75位以内を原則採用し、450位外に落ちた採用銘柄は原則除外します。
さらに、日経独自の36業種を6セクター(技術/金融/消費/素材/資本財・その他/運輸・公共)に集約し、セクター間の銘柄数バランスを整えるために相対採用・除外を調整します。定期入れ替えの上限は1回当たり3銘柄です。
「指数リバランス」とは?
「リバランス」とは、ポートフォリオ運用を行う際に資産配分を定期的に見直し、調整することです。株価指数に連動する投資信託やETF(上場投資信託)において、市場の変動によって崩れた当初の資産配分比率を元の状態に戻す作業を「指数リバランス」と言います。
基本的に指数に連動するファンドは、新指数実施日前営業日の大引け(日本市場のクロージング・オークション)で、採用銘柄を買い、除外銘柄を売るのが基本です。今回、価格加重の日経225では、PAF(Price Adjustment Factor=価格調整係数)や株式分割の扱いも加わって新指数に必要な株式数量が決まります。PAFは銘柄ごとの「指数に影響を与える価格」を調整する仕組みで、分割や特定の事由で見直されます。クロージングでの特殊気配・特別気配の取り扱いも指数算出上重要です。
銘柄入れ替え以外の見直しも
2025年10月実施(10/1算出から反映)の定期見直しでは、
採用:SHIFT(3697)、除外:シチズン時計(7762)。
併せて、ベイカレント(6532)のPAFが0.5→1.0へ引き上げ。
さらに、日本製鉄(5401)、IHI(7013)、ニトリHD(9843)の株式分割に伴うPAF変更(いずれも9/29適用)と、ソニーフィナンシャルグループ(8729)のスピンオフに関する一時的な指数算入の取り扱いも開示されています。これらは実需の発生時点や取引すべき株式数量に影響するため、リバランストレード実務上の重要ポイントです。
リバランスの売買規模は?
指数連動ファンドの規模は、リバランス時のフローを予測するための最重要情報です。
しかしこれを正確に把握することは不可能。ここでは主要な日経225連動ETFの純資産総額(AUM)を紹介します(執筆時点の最新公表値)。
- 1321 NEXT FUNDS 日経225連動型:約12.01兆円(2025/9/12)
- 1330 上場インデックスファンド225:約5.48兆円(2025/6/30)
- 1346 MAXIS 日経225上場投信:約2.66兆円(サイト掲示の直近値)
- 1329 iShares Core Nikkei 225:約1.56兆円(2025/9/12)
この主要4本だけで合計約21.7兆円。
実際には他のETFや投信、年金のパッシブ資金、裁定業者による日経平均連動裁定ポジションも存在するため、リバランスの売買規模はさらに大きくなります。
9月30日の大引けがポイント
ETFを代表とするインデックスファンドは引け値でトレードを執行しなくてはいけません。
何故ならば指数との連動性が崩れる(トラッキングエラーが出る)ことを一番嫌がるためです。
そんな指数リバランスでは、採用銘柄に買い需要、除外銘柄に売り需要が集中し、さらに先回りした思惑に基づいたプレポジションの売買も入るため、とくに2025年9月30日の大引けに通常以上のフローが集中します。
単純平均・価格加重の日経225では、採用銘柄の株価水準とPAFがリバランスに必要な株式数量を決定する点がTOPIX等と異なります。結果として、以下のようなフローが市場で執行されます。
- 採用銘柄:短期的な上昇(順方向需給の買い)→その後の反動もありうる
- 除外銘柄:短期的な下落(順方向需給の売り)→需給一巡後に戻りも
- ファンディング・トレード:指数ファンドは新規採用の買い資金を確保するため、「その他の構成銘柄」を按分で売る/除外の売りの資金で「その他」を買い戻す動きが同時に発生します。大引けの特別気配の立ち方やクロスの組成が、終値の歪みを増幅させることがあります。採用除外銘柄に注目が行く傾向がありますが、指数の連続性を考えるとこのファンディング・トレードの影響が大きく出ることも忘れてはいけません。
個人投資家はどう立ち回ればよい?
このような採用銘柄変更に伴って確実に起きる指数イベントは、如何に先回りができるかで立ち回りが変わってきます。以下にいくつか、個人投資家でも採用銘柄に関連する個別株の売買で先回りができるポイントをまとめてみます。
1.発表タイミング:定期見直しは例年9月上旬に発表→10/1から算出反映。公表直後から思惑で動きやすく、実需は9月30日の大引けで最大化。
2.候補探索:選定は流動性重視+業種バランス調整。売買代金の増加や話題性の高い大型分割、指数のセクター配分の偏りはヒント。
3.株式分割とPAF:株式分割の予定やPAFの変更は必要数量を左右。分割や特殊取扱い(スピンオフ等)の発表は要チェック。
4.リバージョン:大引けでの指数買い・売りの後は反動が起きやすい(リバージョン)。短期の需給トレンドと中長期の企業価値を分けて考える。
5.流動性管理:板が薄い時間帯や値幅制限に注意。クロージング中心の執行が常識でも、個人は分散エントリーで価格リスクを平準化した方が無難。
まとめ
- 日経平均の入れ替えは年2回、ルールに基づく「機械的な入れ替え」
- 2025年10月はSHIFT採用/シチズン除外、加えてPAFや分割対応、スピンオフの特殊取扱いが発生。イベント当日2025年9月30日の大引けにフロー集中
- 主要ETFだけで約21.7兆円規模だがそれ以外も考慮すべき
最後に、リバランスは「需給イベント」。
発表→思惑→大引けの実需→反動という一連の流れを頭に入れ、数量(どれだけの資金が動くか)と執行タイミングを意識すれば、初心者でも無用なノイズを避けつつ、機会を見出せます。
おまけ:リバランスのインパクトをざっくり見積もる
1.指数内ウェイトの近似= 採用株価 ÷(日経平均×除数)。除数は指数の継続性を保つための調整定数。2025年9月時点で29.61653922。
2.必要売買代金の近似= 連動資金総額 × ウェイト差(採用後−採用前)。
例(代表ETF4本=約21.7兆円のみで試算):
・ SHIFTの終値1,435円→ウェイト約0.108%。必要買い約235億円。
・シチズン終値1,023円→ウェイト約0.077%。必要売り約168億円。
・差額約68億円は、その他225構成銘柄の按分売りで手当てされやすい。
(指数値・除数・終値は直近公表値に基づく概算)
ちなみに某外資系証券会社は
・ SHIFTの必要買い約340億円 (平均出来高の8.86倍)。
・シチズンの必要売り約256億円 (平均出来高の21.39倍)。
のインパクトが出ると予想しています。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2025年9月19日時点の情報に基づきます。
※あくまでもニート4年生かえるさんさん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。
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Note:https://note.com/pista7mj/membership