株価暴落と「次の上昇の芽」
私の投資歴は約18年になりますが、その間に2008年のリーマン・ショック、2020年のコロナショック、2025年のトランプショックなど、様々な暴落を経験してきました。
いずれの暴落時も資産額が大きく減りましたが、暴落の最中に買い増すことができた資産は、得てしてその後に大きなリターンをもたらしてくれています。
株式投資を始めて間もない方にとって暴落ほど怖いものはないと思います。ニュースで「株価大幅下落」と報じられれば、「自分の資産も大きく減ってしまうのではないか」と不安になるのは当然です。しかし、投資の歴史を振り返ると、暴落の裏側には必ず「次の上昇の芽」が隠されています。
長期的な資産形成を目指す投資家にとって、暴落は資産を減らすリスクであると同時に、将来のリターンを高める絶好の「買い増しのチャンス」でもあります。その時に大切になるのが、感情に振り回されずに行動するための「買い増しルール」です。
焦りと恐怖…「落とし穴」に注意
株価が下落すると、多くの投資家は恐怖に駆られます。「もっと下がるのでは?」「このまま投資を続けて大丈夫?」という不安が大きくなり、冷静な判断を失いがちです。典型的な落とし穴は次の2つです。
● 感情に任せて売却してしまう
最悪のタイミングで損失を確定させてしまい、暴落後の反発相場に乗れなくなります。
● 一気に資金を投入してしまう
「今が底だ!」と思い込んで全力で投資し、その後さらに下落して資金が枯渇してしまうケースです。暴落時に資金管理を誤ると身動きがとれなくなるため大変危険です。
暴落は一度で終わらず、数週間〜数カ月にわたって断続的に続くことも珍しくありません。だからこそ、焦りや恐怖に流されず、自分なりのルールを決めておくことが重要です。
買い増しルールの考え方
初心者でも実践しやすい暴落時の「買い増しルール」について、私が考える基本原則を紹介します。
1. 定額・定期で買い増す(投信積立など)
暴落時でも普段と同じ金額で買い増す「ドルコスト平均法」は有効です(図1)。暴落時には安値で多くの口数を購入でき、長期的には取得単価を下げる効果が期待できます。積立投資が本領発揮するのは暴落時とも言えるのです。
2. 段階的に資金を投入する
一度に全額を使わず、「株価が5%下がったら一部追加」「さらに5%下がったらもう一部追加」といった形で分割投資することで、リスクを分散できます。
3. 事前にルールを紙に書いておく
「〇%下落したら〇万円買い増す」といったルールを事前に可視化しておけば、感情に流されず行動できます。
4. 生活防衛資金には絶対に手を付けない
投資は余裕資金で行うのが大前提です。暴落に備えて、生活費の6ヶ月〜1年分は投資口座とは別に確保しておきましょう。生活防衛資金は万が一の時に自分の生活を守ってくれるお金なので、暴落時に「今がチャンス!」と思っても絶対に投資に回してはいけません。
5. 購入銘柄はインデックスや分散性の高い商品を中心にする
個別株は暴落時に想定以上の下落をすることがあります。最悪の場合、倒産や上場廃止に追い込まれるケースもあります。初心者は、S&P500や全世界株式インデックスといった、分散効果の高い商品で買い増しを検討すると安心です。
暴落時の買い増し「NG行動」
暴落時に以下の行動をとってしまうと、致命的な損失を被り、再起不能となる危険性があるため注意しましょう。
● 信用取引でレバレッジをかける
下落相場では追証リスクが高まり、退場に直結します。株式は現物でも十分に値動きの大きいリスク資産です。レバレッジ取引は投資経験の多寡と関係なく、おすすめしません。
● SNSやYouTubeの「今が買い時」情報を鵜呑みにする
他人の意見に振り回されると、自分の資金計画が崩れます。暴落時には「今こそ買い!」「今売らないと大損確定!」といった情報が溢れかえりますが、全て無視して自分の投資方針を守ることに集中した方がよいでしょう。
● ナンピンを繰り返しすぎる
下落している銘柄に固執して資金を集中投下するのは危険です。特に個別株では倒産や事業悪化のリスクもあるため注意が必要です。S&P500や全世界株式インデックスなどの「株価指数」であれば、暴落後の回復が期待できます。一方で、個別株の一部はナンピンを繰り返した結果、最後まで株価が戻らなかったというケースがあるからです。
暴落時ほど、冷静さを失いやすいのが人間の心理です。NG行動をあらかじめ知っておくことで、自分の投資行動をコントロールしやすくなります。
買い増し以外にできることとは?
これまでの投資経験や本人の性格、資産額などによって、最適な投資戦略は変わってきます。必ずしも暴落時に果敢に買い増すことが正解とは限りません。以下のような対応も検討できます。
● 積立投資を継続するだけ
無理に追加投資をせず、普段どおり毎月積立を続けるのも立派な戦略です。暴落時のミスの大半は人間心理から来ると言われています。投信積立の設定をして機械的に買い足すことで、暴落時にやってはいけないミスの多くを防ぐことができます。
● 資産配分を見直す
長期投資では、資産配分(アセット・アロケーション)を決めることが重要です。株式の割合が大きくなりすぎている場合、暴落が来る前に債券や現金の比率を増やすのもリスク管理の一環です(図2)。また、暴落時には株式の比率が下がるので、リバランスによって割安になった株を買うのもよいでしょう。
● PTS取引(私設取引システム)の活用
東京証券取引所の取引時間外でも売買できるPTS(Proprietary Trading System)取引を活用すれば、暴落ニュースが夜間に出ても対応することができます。PTSとは、東証などの証券取引所を介さずに、独自の電子取引システム上で株式やETF(上場投資信託)などを売買できる市場で、ジャパンネクスト証券などが運営しています。日中は仕事や家事などで時間が取れない人も夕方や夜間に株式の売買などができますが、参加者が少ないため希望する注文が約定しない場合があるほか、値動きも大きくなることもある点には注意が必要です。
● 一時的に静観する
暴落時に不安が強いときは、無理に動かず相場を見守るのも選択肢です。過去の歴史を振り返れば、暴落がずっと続くことはなく、暴落後には必ず上昇相場がやってきます。不安や恐怖心が大きい時の投資行動は大失敗につながりやすいため、静観するのも立派な投資戦略です。
まとめ
株価暴落は私たち投資家にとってストレスが大きい局面ですが、一方で将来の大きなチャンスでもあります。感情に振り回されず、自分なりの「買い増しルール」を持つことで、暴落をチャンスに変えることができれば、資産形成を一気に加速することができるからです。
暴落時に最も重要なのは以下の3点を守ることです。
● 暴落を恐怖ではなくチャンスと捉える
● 買い増しルールを事前に決めて冷静に対応する
● NG行動を避け、余裕資金で投資を継続する
長期投資のゴールは20〜30年先なので、その間に大暴落が必ず何度かやってきます。短期的な株価の上下動に振り回されず、自分のゴールを見据えて行動することで、暴落を上手に乗り越えられれば将来大きなリターンが得られます。
これから投資を続けるあなたも、暴落が来る前にぜひ自分だけのルールを作り、暴落をチャンスに変えられる投資家を目指してみてください。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2025年10月17日時点の情報に基づきます。
※あくまでもDr. ちゅり男さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。
2007年に元手100万円で日本の個別株投資を始めるも、リーマン・ショックの影響で損失が拡大。2011年からインデックス投資中心に切り替え、その後は順調に資産を拡大。2020年のコロナショック後に貯金の大半を米国ETFに一括投資し、その後の株価上昇で資産1億円を突破し「億り人」に。2024年に初の単行本『世界一やさしい投資信託・ETFの教科書1年生』、2025年に続刊『世界一やさしいお金の教科書1年生』を出版。
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