金融・投資

2023.04.13

「新しい資本主義」ってどういうこと?投資をする人なら知っておきたいポイント

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2021年10月に岸田文雄政権が発足してから1年余りが経過しました。2022年は新型コロナウイルス、ロシアによるウクライナ侵攻、世界的なインフレ、急速な円安の進行など、非常に多くの問題が生じましたが、NISA(少額非課税制度)の拡充など投資家にとっては嬉しいニュースもありました。このNISAの拡充は岸田政権の看板政策である「新しい資本主義」に基づくものですが、そもそも「新しい資本主義」とは何でしょうか?今回は投資家が知っておくべき「新しい資本主義」のポイントを整理していきましょう。

今回お話を伺ったのは…

森永 康平さん

森永 康平さん

株式会社マネネCEO / 経済アナリスト
証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。その後2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、AIベンチャーのCFOも兼任するなど、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。
著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。
2つのYouTube番組を運営 ①:森永康平のリアル経済学 ②:森永康平のビズアップチャンネル
日本証券アナリスト協会検定会員。経済産業省「物価高における流通業のあり方検討会」委員。 文化放送「おはよう寺ちゃん」水曜日レギュラーコメンテーター。

新しい資本主義とは何か?

 1980年代から2000年代にかけて、世界では大きな潮流の下で構造変化が生じました。その大きな潮流とは「市場主義」、「グローバリズム」、「資本主義」です。基本的に政府の介入は極力小さくし、市場や競争に任せることで世の中は効率的にうまくいき、かつそれを国境なく世界規模で押し進めれば経済全体も成長していく。更に高度化する金融工学を活用していけば、その効率は格段に高まっていく。このような考え方を「新自由主義」と総称することもありますが、この30年近くはまさに多くの国が新自由主義を押し進めました。

 しかし、その結果として経済格差の拡大、気候変動問題の深刻化、過度な海外依存による経済安全保障リスクの増大、人口集中による都市問題の顕在化、市場の失敗等による多くの弊害も生みだしました。特に2022年は冒頭に触れたように新型コロナウイルスやウクライナ侵攻などにより、グローバリズムが抱える危険性や、必ずしも新自由主義を全ての国が受容しているわけではないという現実を目にし、新自由主義をこのまま押し進めるべきなのか、という疑問を抱く方も多かったでしょう。

 そこで、「新しい資本主義」とは、その根幹は資本主義ではあるものの、従来の資本主義が抱えていた問題点を官民が連携して解決する計画であると言えましょう。岸田総理は新しい資本主義の実現には「成長と分配の好循環が必要」と述べており、具体的にはDX(デジタルトランスフォーメーションやGX(グリーントランスフォーメーション)などへの投資を加速させる「成長戦略の実現」や、賃上げや人への投資の抜本的強化による「分配戦略の実現」、消費者保護や少子化対策、子ども政策をはじめとする「全ての人が生きがいを感じられる社会の実現」を挙げています。

PTSに関する政策とは

 新しい資本主義が非常に幅広い変革を求めているなかで、NISAの拡充はそのうちの1つに過ぎないことが分かるかと思いますが、実は投資家にとっても注目すべき点はもう1つあります。それはPTS(私設取引システム)に関する政策です。PTSとは認可を受けた証券会社が、株式などの有価証券の売買を成立させる取引システムのことで、PTSを利用することで投資家は証券取引所を介さずに有価証券を売買することができます。PTSは証券取引所と同様に証券会社を通して送信されてくる投資家の売買注文をマッチングし、約定させる「取引市場」としての役割を果たしていますが、取引所のルールとは違った呼値や売買単位、取引時間や注文方法での執行が可能なことが特徴です。

 現在、日本におけるPTSの主な使われ方は、個人投資家がオンライン証券などでSOR注文を出し、PTS上で取引所よりも良い価格があった場合に、PTSで取引が執行される、といったものです。取引所が開いていなくても上場株式の取引を行うことができるため、日本の株式市場が閉まっている間に海外で大きなイベントが発生した時に時間外取引をしたり、取引所でトラブルが発生した時に代替手段として利用したりすることもできます。新しい資本主義においては、PTSで特定投資家が非上場株式のセカンダリー取引が出来るように制度整備をし、かつ特定投資家の範囲も拡大しようとしています。

 なぜ、そのような変更をしようとしているかというと、新しい資本主義を実現するうえでスタートアップ企業が重要なプレイヤーとして期待されているからです。スタートアップ企業は新しい技術を活用しながら社会に大きな変革を生じさせますが、創業してから何度も資金調達をして企業価値を高めていきます。銀行からの融資というかたちでの資金調達もあるのですが、信用力がないスタートアップ企業にとっては投資を受けるというエクイティファイナンスの方が一般的です。従来は成長とともに資金調達を繰り返して事業をどんどん拡大していくものですが、投資をしたVC(ベンチャーキャピタル)などが運用するファンドの償還期間などの都合で、上場前に十分な成長を遂げる前に上場(IPO)せざるを得ない状況に追い込まれるケースも散見されます。

 米国では、特定投資家を対象に民間事業者による発行済み非上場株式の売買をマッチングするオンラインプラットフォームが複数存在しており、日本でも同様のサービスをPTS上で行うことが出来れば、早期上場の必要性が弱まることにより、上場前にスタートアップ企業がじっくりと時間をかけて大きく成長できることが期待されます。また、非上場株式のセカンダリー取引が円滑化されれば、結果としてプライマリー取引も促進されることになります。

今後の展望

 現在、金融商品の「取引の場」としては、免許制である証券取引所のほか、証券会社が運営する認可制のPTSと証券会社の店頭取引の3つがあります。またPTSは前述の通り証券取引所の代替手段のような建付けになっていますが、今後は非上場株式のセカンダリー取引の場にもなり、そこで取引が可能な特定投資家の範囲も拡大していくことが検討されていますから、もっと先までを見通せば、将来的には外国株式、デリバティブ、証券トークンなど多種多様な金融商品を個人投資家が取引できるようになっていくのでしょう。

 個人投資家にとって、投資対象が増え、かつ投資可能な時間帯が広がり、発注する際の売買単位が細かくなっていくのであれば、現在よりも更に柔軟な投資行動を取ることが可能になります。
 岸田政権は「資産所得倍増計画」を掲げていますが、その為にはNISAの拡充だけではなく、このようにPTSの活用範囲を拡大させていくことが欠かせないといえるでしょう。

※本記事に掲載されている全ての情報は、2023年1月16日時点の情報に基づきます。

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