金融・投資

2023.04.13

2023年春から解禁 “給与デジタル払い” メリット、デメリットは?

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お給料の受け取りといえば、銀行口座で受け取るのが一般的ですが、今年の春からスマホ決済のアプリなどで給与が受け取れる予定となっており、これまでの常識が覆ります。今回は、今注目されている給与デジタル払いの概要、メリット、デメリットなどについて解説します。

今回お話を伺ったのは…

高山一恵さん

高山一恵さん

ファイナンシャル・プランナー(CFP®認定者)1級ファイナンシャル・プランニング技能士株式会社Money&You 取締役(https://moneyandyou.jp/
東京都出身。慶應義塾大学文学部卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを創業。10年間取締役を務めた後、現職へ。女性向けWEBメディア『FP Cafe®』や『Mocha』を運営。また、『Money&You TV』や「マネラジ。」「Voicy」などでも情報を発信している。全国での講演活動、執筆、マネー相談を通じて、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく、親しみやすい講演には定評がある。
主な著書・監修:
「はじめてのNISA &iDeCo」(成美堂出版)「1日1分読むだけで身につく お金大全100」(自由国民社)」「はじめのお金の基本」(成美堂出版)「マンガと図解 はじめてのFIRE」(宝島社)他多数

給与デジタル払いとは

 そもそも給与の受け取りを決めているのは労働基準法です。現在の給与支払いのルールは、労働基準法第24条で「賃金は、通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならない」と規定されています。例外として、銀行口座と証券総合口座での受け取りを認めています。
 そして、今回、厚生労働省は、省令を改正し、今年の4月から企業が労働者の給与を銀行口座を介さずに資金移動事業者として登録しているPayPayや楽天ペイなどのスマホ決済アプリなどに、直接振り込める仕組みを解禁します。
 給与を受け取る立場としても、これまでは「給与を受け取るのは銀行口座」というのが常識でしたが、今後は選択の幅が広がりそうです。

給与デジタル払いを政府が解禁する理由は?

 政府が給与デジタル払いを解禁するのは、キャッシュレス推進政策の一環です。経済産業省の資料によると、2021年のキャッシュレス決済比率は32.5%。キャッシュレス決済が普及している韓国で約95%、中国では約80%、イギリスでは約60%、アメリカでは約50%など、世界の主要国と比べて日本は低い水準にあります。
 そこで、政府は同比率を2025年までに40%程度、将来的には80%程度にまで引き上げることを目指しており、給与デジタル払いは、この目標を達成するためにも必要不可欠と判断したと言えます。
 政府がキャッシュレス決済を進める主な理由として、現金の取り扱いにかかるコスト削減(ATMの設置・運営など)や労働時間に対する生産性向上、訪日外国人による消費の拡大などがあります。

給与デジタル払いのメリット・デメリットは?

 では、給与デジタル払いのメリット・デメリットを見てみましょう。
 メリットは、銀行口座を介さずにスマホ決済アプリなどに直接給与が振り込まれれば、銀行口座やクレジットカードなどからチャージする手間が省けます。
 また、普段使いのスマホ決済アプリに給与が入金されれば、お買い物もスムーズ。買い物をするたびにポイントも貯まってさらにお得です。
 利用するスマホ決済アプリによっては、貯まったポイントを投資に利用することもできます。例えば、PayPayであれば、決済後に付与されるポイント「PayPayポイント」で、1ポイントを1円として、金融商品に擬似投資することができます。擬似投資した金融商品の価格が上がれば、運用しているPayPayポイントに含み益分のポイントが上乗せされます(値下がりする場合もあり、ポイントが減る場合もあります)。ポイントは現金化できませんが、運用中の残高から引き出し、PayPayを利用した支払いに充てることができます。
 投資をやったことがない人にとっては、投資に対するハードルは高いと思いますが、いつも使い慣れている決済アプリから気軽にポイントで投資できるのであれば、投資へのハードルもグッと下がりそうですね。ポイント投資で投資の経験を積むことで、本格的な投資への移行もスムーズにできるのではないでしょうか。
 他にも銀行口座を開設しにくい外国人の労働者や日雇い労働者がデジタルマネーで給与を受け取りやすくなり、彼らを雇用する企業の利便性も高まります。
 デジタルマネーとして振り込まれる給与は1円単位で引き出すことができ、月1回は手数料がかからず、ATMで引き出せる予定です。
 一方、デメリットは、給与の全額をスマホ決済アプリで受け取るとなると、クレジットカードの利用代金や公共料金、家賃など、銀行口座から引き落としになるお金の支払いに困ります。また、給料日に銀行口座から積立定期預金をしているなどといった場合、スマホ決済アプリで給与を受け取るとなると、計画的に貯蓄ができなくなる可能性もあります。
 また、デジタル給与の送金額の上限は100万円までとなっています。100万円を超えた分については労働者が指定する銀行口座や証券総合口座に送金される仕組みとなるようです。1回あたりの給与が100万円を超える人は少ないかもしれませんが、問題は、受け取ったデジタル給与を「PayPay」などの残高で持つ場合に、持てる残高の上限も100万円に抑えられている点です。つまり、完全には、デジタル給与払いは、銀行の代替にはならないという課題があります。
 ただし、給与のデジタル払いが解禁になっても、従来通り銀行口座で受け取ることは可能ですし、銀行口座への振込とデジタル払いの併用もできる見込みです。給与をデジタル払いで受け取る場合、スマホ決済アプリで買い物する代金の分だけ受け取るのが現実的かもしれません。
 さらに、記憶に新しいのがドコモ口座の不正引き出し事件です。ハッキングなどによる資金の不正流出やセキュリティ不備による不正送金、スマホ決済アプリを通じて集められる利用者の行動履歴、購買履歴などの個人情報の流出など、セキュリティ面での不安も懸念点といえるでしょう。
 そして、一番懸念されるのが、自分が使用しているスマホ決済などの資金移動事業者が経営破綻してしまった場合です。
 例えば、銀行やその他の金融機関が経営破綻した場合には、「預金保険制度」が適用になり、「預金口座の元本1,000万円」まで保護されます。金融機関はそのために保険料を負担し、厳しい自己資本規制も課されています。
 一方、スマホ決済などの資金移動事業者は、利用者の資金の全額を供託などで保全する必要がありますが、取扱額が日々変動していることからタイムラグが生じ、経営破綻時に保全額が十分ではないこともあります。
 そのため、給与デジタル払いに参入する資金移動事業者は、「個人が預けた資金の残高の全額を保証する仕組みを導入すること」「最後に残高が変動した日から少なくとも10年間は残高が有効であること」などが義務付けられています。企業にとっては、相当なコスト負担になるため、参入障壁は高いといえるでしょう。今のところ、Pay Payや楽天ペイ、メルカリなどが参入を検討していることを明らかにしていますが、今後の動向に注目したいところです。

給与のデジタル払い解禁で注目される業界は?

 給与デジタル払い解禁で今後ますますキャッシュレスが進むと仮定すると、キャッシュレス決済に関連した銘柄の成長が期待できます。スマホ決済アプリを運営している企業などは、要注目といえるでしょう。
 他にも決済システムの構築や決済代行を手がける企業やフィンテック企業なども事業拡大の好機となりそうです。
 今回の給与デジタル払いのように、身近な話題からどんな企業のサービスが注目をされるのかを考えてみると、有望な銘柄が見つかるかもしれません。幅広く投資情報をキャッチするためにも、日頃より情報のアンテナを広げておきましょう。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2023年2月22日時点の情報に基づきます。

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