金融・投資

2023.05.31

今回お話を伺ったのは…

井内 義典(いのうち よしのり)さん

井内 義典(いのうち よしのり)さん

(株)よこはまライフプランニング代表取締役、特定社会保険労務士、CFPⓇ認定者、日本年金学会会員、㈱服部年金企画講師。
活動拠点は主に横浜、これまで公的年金についての相談業務や教育研修に従事し、『週刊社会保障』などで年金の記事を数多く執筆している。また、若年層の金銭教育や、資格学校勤務の経験を活かした資格受験対策にも携わっている。
取材協力先としては『日本経済新聞』『読売新聞』『プレジデント』など。
大阪府寝屋川市出身。
FP相談ねっと(https://fpsdn.net/fp/yinouchi/

2023年度の年金額改定について

 公的年金は受給を始めると、同じ額がずっと続くわけではありません。経済状況に応じて毎年度改定がされることになっています。

2023年度の年金額は2022年度の年金額より上がりました。しかし、新規裁定者(67歳以下・1956年4月2日以降生まれ)は+2.2%、既裁定者(68歳以上・1956年4月1日以前生まれ)は+1.9%でそれぞれ改定されたことから、2023年度は新規裁定者と既裁定者で年金額に差が生じています。

 年金額は本来、新規裁定者は「名目手取り賃金変動率」、既裁定者は「物価変動率」を基準に改定するルールとなっています。つまり、67歳以下と68歳以上で、賃金を基準とするか、物価を基準とするか異なっています。しかし、2022年度までは、67歳以下も68歳以上も同じ改定率で改定し、同じ計算方法、年金額でした。これは物価変動率が名目手取り賃金変動率より高かったためで、その場合は新規裁定者も既裁定者も同じとすることになっていたためです。

 今回2023年度の改定にあたっては、名目手取り賃金変動率は+2.8%、物価変動率は+2.5%となりましたので、賃金が物価より高くなっています。そのため、新規裁定者と既裁定者で改定される額が異なったことになります。ただし、実際の年金額の改定にあたって、名目手取り賃金変動率+2.8%、物価変動率+2.5%、それぞれそのままプラスになるわけではありません。

年金が目減りしている理由はマクロ経済スライド

 年金額の改定にあたって、マクロ経済スライドの調整率による調整があります。これは公的年金の被保険者数の減少と平均余命の伸びを勘案した率で、少子高齢化のため、当該調整率によって給付の伸びが抑制されることになっています。

 その2023年度分の調整率については-0.3%となっています。しかし、調整はこの-0.3%だけではありません。過去に2021年度、2022年度の改定にあたって、マクロ経済スライドによる調整の前に既にマイナス改定となることから、当該調整率の調整は行われていませんでした。このそれぞれの年度の未調整となった調整率(2021年度は-0.1%、2022年度は-0.2%)の合計-0.3%については繰り越されることになり、今回プラス改定となる2023年度でその分の調整がされることになりました。

 その結果、合わせて-0.6%分が調整され、新規裁定者は+2.2%、既裁定者は+1.9%となりました。賃金や物価が上がっていても「年金が目減りしている」と言われるのは、このマクロ経済スライドによるものとなっています。

自分が受けられる年金を確認するには?

 年金額の改定は以上の仕組みで行われることとなりますが、2024年には財政検証が行われます。これは公的年金財政の健康診断とも言えるもので、5年に1度行われることになります。その財政検証の結果を経て、今後の更なる年金制度の改正について議論が本格化するものと考えられます。

 現在、支給開始年齢は60歳から65歳へと引き上げ途上で、やがて65歳開始となりますが、自分自身の年金の支給開始年齢や受け取れる年金額については「ねんきん定期便」で確認することができます。公的年金の被保険者であれば毎年誕生月(1日生まれの場合はその前月)に届くこの「ねんきん定期便」に表示される年金額は、届いた当時の年金額ですので、冒頭述べた年度ごとの年金額改定や法改正を理由に将来また年金額が変わることもあります。今後もマクロ経済スライドによる年金の目減りが続くことも想定しておきたいところでしょう。

「長生きリスク」に備えられる公的年金の意義

 年金額の目減りはあるものの、現行制度上、どの世代も65歳から老齢基礎年金や老齢厚生年金が受けられるようになり、これらは終身で受給できる点が大きな特徴です。限りのある貯蓄や私的年金とはその点が大きく異なっています。「人生100年時代」と言われていますが、何歳まで生きるかは誰にも予測がつかず、自分の予想以上に長生きをすることもあります。しかし、どれだけ長生きしても受給し続けることができますので、公的年金には「長生きリスク」に備えることができる大きな意義があります。

 ただし、65歳から受けられる公的年金を65歳から受給するだけでは老後資金は足りるかというと、多くの場合は難しいでしょう。公的年金には、65歳から受給せず、繰下げ受給する方法があり、これにより受給開始を遅らせる代わりに増額された年金として終身受給できることになります。1カ月繰下げにつき0.7%増額でき、最大75歳・84%増額まで繰下げが可能となっています。90歳、100歳と長生きした場合に、増額した年金で生涯受給できれば、65歳受給開始(繰下げなし)より安心と言えます。

将来に備える貯蓄&投資

 もちろん、繰下げ受給をしやすくするようにするためには、繰下げ受給開始までの間の生活資金が必要となります。例えば、70歳で繰下げ受給(42%増額)を開始するとしたら、65歳から70歳までの5年間公的年金以外での資金の確保が必要となります。その際に65歳以降の継続的な就労による収入、それまで行ってきた貯蓄や投資、私的年金などが大きな意味を持ってきます。

 65歳以降も勤務する時代となりつつあります。65歳以降フルタイム勤務が難しくなったり、給与が減ったりしても、雇用の機会を活用して勤務できれば給与収入も得られ、在職中は公的年金の受給の必要性が減り、場合によっては貯蓄をすることもできます。公的年金以外の資金が確保できて、その結果、公的年金の受給開始を遅らせやすくなるでしょう。

 こうした自助努力にあたっては、貯蓄や投資などを活用することもポイントとなります。貯蓄方法は自動積立定期預金、財形貯蓄、外貨預金などの活用もありますが、これらの特徴やリスクを把握したうえで活用する必要があります。また、2024年からNISAも新しくなり、非課税枠での株式や投資信託の運用、資産形成も大きな意味を持つでしょう。株式については、私設取引システム(PTS)を活用すれば昼間だけでなく、夜間でも取引が可能ですので、平日昼間働いて忙しい場合に有効に使えます。もちろん、夜間     では取引量が少ないこともありますので、その点も踏まえて活用しましょう。

 個人型確定拠出年金(iDeCo)や企業型確定拠出年金も加入できる年齢が引き上げられ、60歳以降も加入できる機会が増えていますので、近年の私的年金の改正点も押さえておきたいところです。

まとめ

 もはや「60歳で定年、60歳から年金受給開始」という時代ではなくなっていることを念頭に置いて、働き方や年金受給について計画する必要があります。

 老後資金のベースとなるのは、やはり終身で受け取れる公的年金で、公的年金中心に考えることになりますが、それだけでは不十分と言えます。就労による収入や貯蓄や投資も上手く組み合わせることがポイントとなります。今後再び改正が予想される年金制度についての情報も得ながら、自身の家計の状況やキャッシュフローについて定期的に確認、見直しをして老後に備える必要があるでしょう。

  「人生100年時代」に安心できるようにするためには、資産寿命を伸ばすことが大切です。以上を踏まえて、自分に見合ったプランを立ててみましょう。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2023年5月26日時点の情報に基づきます。

※あくまでも井内さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。

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