株式

2022.07.04

【暮らしに寄り添うFPが解説】「波乱の株式市場をどう読み解く?」自分の相場観を養うための3つの視点とは

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「今年の日本の株式市場は世界経済の回復期待もあり好調な見通しだ」 「アメリカの株式市場は経済政策の後押しもあり、最高値を狙える環境が整っている」 テレビ番組や新聞など各種メディアでは、日本の株式市場やアメリカの株式市場の動向を予測しているので、参考にしている人も多いでしょう。各種メディアや専門家の意見は参考にしつつも、自分なりの株式市場の見通しを持つことも大切です。 では、どのような視点で株式市場の動向を読み解き、自分なりの相場観を養えば良いのでしょうか。 そこでFPの重定賢治さんに、”株式市場の動向の読み解き方”をテーマにお話をお聞きしました。ぜひこの記事を読み、株式市場を自分なりに読み解き、相場観を養うための参考にしてください!

今回お話を伺ったのは…

重定賢治(しげさだ けんじ)さん:
ファイナンシャル・プランナー事務所「FP OFFICE 海援隊」代表。明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。2007年、ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格「CFP資格」を取得後、開業。主に子育て世帯や退職準備世帯に対し、「暮らしとお金」の相談業務に従事している。
「FP OFFICE 海援隊」:https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai

① 金融緩和か引き締めか、金融政策を軸に読み解く

― 早速ですが、重定さんは株を取引する際にどのような視点で株式市場の動向を読み解いていますか?

重定さん:私は金融政策、特に「金融緩和」を重視して株式市場を読み解いています。

金融緩和とは、中央銀行が金利を下げたり国債を買い入れたりすることで、市場に出回るお金の量を増やす政策のことですね。反対に、金利を上げたり国債などを売却したりすることで市場に出回るお金の量を減らす政策を「金融引き締め」と言います。金融緩和政策によって、株式市場の景色は大きく異なります。

基本的には次のように株式市場を捉え、投資をしています。
株価動向 株式投資
金融緩和中 全体的に上昇傾向 買い
金融引き締め中 企業毎にまちまち 業績の良い企業へ
ピンポイントで投資
ただ、そうは言っても株価は日々変動します。そのため、盲目的に「金融緩和中=買い」と考えるのではなく、国際情勢をウォッチしつつ、チャートもチェックするなど、さまざまな観点から株式市場を多角的に検証することが大切です。

― 金融緩和か金融引き締めかで大まかな株式市場の傾向を捉えつつ、国際情勢やチャート分析といった切り口で市場を検証することが大切なのですね。

重定さん:そうですね。あくまで市場の読み解き方の一側面ではありますが、投資期間を問わずに活用できる方法かと思います。

― それでは、①金融緩和について②国際情勢③チャート分析の順で、詳しくお話を聞かせてください。まずは①金融緩和について、そもそもなぜ「金融緩和中=全体的に株価上昇傾向」と判断されるのでしょうか?

重定さん:金融緩和により大量に出回った資金が株式市場に流入するため、株価が上がりやすくなるからです。金融緩和によってお金の流れを国の力で人工的につくりあげているんですね。2013年から始まったアベノミクスによって株価が急上昇したのも、金融緩和による影響が非常に大きいんですよ。この金融緩和中に起こる株式市場の波を”金融相場”と言い、金融相場では基本的に多くの株は上昇傾向にあるため、「買い」と判断されやすくなるといえるでしょう。金融緩和中は、多くの銘柄が上がることから、さまざまな銘柄で構成されるインデックスファンド(※)に投資をしても良いかもしれません。

※インデックスファンド:日経平均株価やTOPIX、NYダウなどの(株価)指数に連動した運用を目指す投資信託

― 金融緩和をしているかどうかがポイントなんですね。

重定さん:そうです。加えて「財政政策が十分かどうか」も合わせてチェックしてください。確かにアベノミクスで株価は上昇しましたが、財政政策(※※)が不十分だった面があります。財政政策がより大規模であったら、さらなる株価上昇が期待できたでしょう。

一方、2020年3月からのアメリカの大規模な金融政策は金融緩和・財政出動ともに十分だったため、株式市場は上昇していきました。

※※財政政策:公共事業を拡大するなど、政府が直接国の需要を創り出す政策のこと

― 反対に「金融引き締め中=企業ごとにまちまちな動きをする」ため、業績の良い企業をピンポイントで投資するのが良いんですね。

重定さん:そうですね。金融緩和による金融相場が終わると、企業業績に基づいた、底堅い”業績相場”に移行していきます。業績相場では金融相場のように必ずしも市場全体が上がるとは限りません。そのため、インデックスファンドではなく、業績が期待できる企業を狙って投資する傾向が強まるようになります。

― 実際に重定さんが”金融緩和”に着目して投資をしたご経験があれば、お聞かせください。

重定さん:アベノミクスが始まってから、通常の株価より大きな利益が期待できる「レバレッジ型のインデックスファンド」(※※※)へ投資を始めました。これは異次元の金融緩和を実行するアベノミクスによる株価上昇を見込んだためです。実際にアベノミクスで株価は急上昇しました。

※※※レバレッジ型のインデックスファンド:対象となる指標の日々の値動きの2倍や3倍などの値動きに連動した運用を目指す投資信託
<株式市場の読み解き方のポイント① 金融政策を軸に読み解く>

● 金融緩和中は金融相場がつくられ、株式市場は全体的に上昇傾向。インデックスファンドに投資しても良い。

● 金融が引き締められると、金融相場から業績相場に移行していく。株式市場は個別株によってまちまちな動き。好業績な個別株に絞って投資しても良い。

② 国際情勢を紐解き、お金の流れの大局観をつかむ

― 続いて、②国際情勢についてお聞きします。株式市場の動向を読み解く上で、国際情勢も確認しておいた方が良いのはなぜでしょうか?

重定さん:「お金の流れを知るヒント」になるからです。株式市場へお金が流入する金融緩和と同様に、お金の流れる国・地域の株式市場は好調になりやすいです。そのため、今はどこにお金が流れているのか、これからどこに流れていくのかを推測するのは株式市場の動向を読み解く上で非常に重要です。そして、そのお金の流れの大局観を持つには国際情勢に関する知識が役に立ちます。

― 世界のどこにお金が回るのか、その大局観を国際情勢から読み解くわけですね。

重定さん:そうです。たとえば、現在は世界経済の中心であるアメリカ市場にお金が集まっていますね。アメリカの各種株価指数も短期的な上下はありつつも、過去10年~20年といった長いスパンで見れば好調といえるでしょう。

ただ、今後30年、40年、50年と、このままアメリカ市場にお金が流入し続けるとは限りません。

なぜなら、現在はアメリカ陣営と中国陣営とがさまざまな分野においてしのぎを削っており、将来的に中国が世界経済の中心に躍り出る可能性もあるからです。今後、中国がより世界経済における存在感を増していけば、アメリカ市場に回っていたお金が中国市場に流入していくシナリオも十分考えられます。

―「アメリカ vs 中国」という国際情勢は引き続き注目ですね。

重定さん:そうですね。実際に中国がNo.1になるかどうかはさておき、「国際情勢によってはアメリカではなく、中国など他の国・地域にお金が流入するかもしれない」という視点を常に持つことが大切です。こうした視点を持っておけば、いざというときに即座に行動できますからね。

国際情勢をチェックしていれば、「アメリカから中国に徐々に世界経済の中心が移りつつある」とか「引き続き今後2~3年間はアメリカにお金が流入し続けるだろう」などと自分で予測して、世界経済とお金の流れの大局観を持つことができるようになります。

― 国際情勢をウォッチする際に、重定さんが注目している国・地域はありますか?

重定さん:資源大国の「ロシア」です。ロシアは歴史的に「影響を与えたい国」なんですね。ロシアは国境を接するヨーロッパや中央アジア、中国などの国々へ、経済・軍事、最近では資源などを通じて圧力をかけたり、逆に友好的な動きをしたりもします。アメリカや中国といった大国の攻防も当然重要ですが、ロシアの動きも注目してみると面白いかもしれません。

― 国際情勢はどのようにチェックすれば良いでしょうか?

重定さん:新聞や書籍などの紙媒体を読みつつ、ネット記事で周辺知識を付けていくのが良いと思います。ネット記事だけでは頭に残りにくいため、紙媒体でしっかり読み込むことをおすすめします。まずは新聞の国際欄を毎日読んでみたり、アメリカ・中国・ヨーロッパ・ロシアなど影響力の強い国や地域の政治・経済に関する書籍に目を通してみたり、大国の狭間で紛争が懸念される地域についてインターネットで調べてみたりなど、様々な角度で国際情勢を眺めてみると面白いかもしれません。
<株式市場の読み解き方のポイント② 国際情勢を紐解いて大局観をつかむ>

お金が流入する国・地域の株式市場は好調になる傾向がある。どこにお金が流れるのか、そのヒントになるのが「国際情勢」だ。アメリカや中国といった大国の攻防やヨーロッパ、ロシアなどの動きに注目して、国際情勢の大局観を持つことが重要。

③ チャート分析をして、短期的な株価動向もチェックする

― 最後に③チャート分析について、株式市場の動向を読み解く上でチャートを見る大切さを教えて下さい。

重定さん:株価が決まる要因には、直接的な要因と間接的な要因の2種類あり、テクニカル上の変化は株価形成の上で最も直接的な要因のため、細かいチェックは大切です。たとえ、金融緩和中で株価の上昇が見込める環境であったとしても、日々株価は上下するからです。そのため、金融政策と株式市場の大局観は頭に入れつつ、2週間程度のスパンでチャート分析を行いながら、それを繰り返すことによって、日々の動向だけでなく、1カ月後、3カ月後、半年後、1年後といった比較的長い期間の動向もカバーしやすくなります。
※重定さんが投資経験をもとにまとめて作成した図表
― 長期投資をする場合にもチャート分析をして、短期的な株価動向をチェックした方が良いのでしょうか?

重定さん:チェックした方が良いですね。基本的に短期投資を積み上げた先に長期投資があるからです。言い換えると、長期投資は「短期的な視点で株式市場を読み解き続けた結果」としての投資行動であり、短期的な株価動向のチェックなしに長期投資はしない方が良いのです。もし初めから長期投資をしようと思ってしていると、土台の短期投資を無視することになるため、どこかで投資行動を間違えてしまう可能性が高くなってしまいます。

― 短期的なスパンで株式市場を捉えて投資判断を行い、その積み重ねの結果として長期投資になるのですね。

重定さん:そうです。株式市場の動向の読み解き方としては、「金融緩和もしくは金融引き締めか」や「国際情勢」で株価の傾向やお金の流れに関する大局観は持ちつつも、チャートで短期的な値動きをチェックし続けると良いと思います。

― さまざまなテクニカル分析の方法がある中で、重定さんはどのようにチャート分析をしていますか?
重定さん:メインは移動平均線を使いますが、MACD(移動平均収束拡散手法)、RCI(順位相関指数)、ボリンジャーバンド、エリオット波動理論(※)なども利用していますね。移動平均線は50日移動平均線を特に注視しており、割安・割高感を確認するために使っています。移動平均線を株価が上に抜けて来たら、”買いシグナル”と判断し、そのシグナルの妥当性をMACDやエリオット波動理論などで確認して、投資判断を行います。

※MACD、RCI、ボリンジャーバンド、エリオット波動理論:チャート分析をする上で活用する指標・理論
<株式市場の読み解き方のポイント③ 短期的な株式動向もチェックする>

短期投資の積み重ねの先に長期投資がある。短期投資の分析には移動平均線やMACD(移動平均収束拡散手法)などを使った、チャート分析も有効。

時代に合わせて自分の考えをアップデートすることが大切。そのきっかけとなるのが「資産運用」

― 今回は「株式市場の動向の読み解き方」をテーマにさまざまなご質問をさせていただきました。最後に「よるかぶラボ」の読者の皆さまへメッセージをお願いいたします。

重定さん:常に時代に合わせて考え方をアップデートさせましょう、ということをお伝えしたいです。普段、相談者さまのお話を聞いていても、特に資産運用に関して今の時代に合った知識・情報がアップデートされていないと感じることがあります。

これからの20年~30年間、現在の考えや常識が通用するとは限りません。たとえば、今は共働き世帯も増えていますよね。そうなると生活スタイルは変わって、夜しか時間がとれない人も多くなるため、PTSについて知っていると、ライフスタイルにあわせて、効率的に投資ができるようになりますよね。PTSを活用すれば、日中は忙しく働いている現役世代の方々も夜に落ち着いて投資ができるのに、そもそもPTSを知らない方もいる。

このPTSは一例ですが、自分の知識や情報をアップデートしていくことが大切だと思います。そして、「時代が変わってきているかもしれない」という情報をキャッチするきっかけになるのが「資産運用」です。資産運用をしていると、新聞や書籍、ネット記事などでさまざまな情報をたくさん集めるようになり、関心事が増え、自然と世の中の動きがわかるようになるのです。それは自分の家計や生活にも影響してきます。

資産運用の目的や楽しさは、お金を増やしていくことだけでなく、とにかく勉強しようとして、国の選挙や政策にまで関心が持てるようになることも資産運用をする魅力ではないでしょうか。私は、資産運用を通じて学べることがとにかく楽しいと思って、投資をしています。

自分の考え・常識をアップデートする、そのきっかけをキャッチするためにもぜひ資産運用をしてみてはいかがでしょうか。
PTSって何?

記事の中で出てきた「PTS (Proprietary Trading System) / 私設取引システム」という言葉。
PTSとは、投資家が取引所以外で有価証券を売買できる取引施設で、東京証券取引所(東証)の代替市場としての役割を期待されるシステムです。
東証とは異なる刻み値や売買単位、注文方法や取引時間外での取引が可能です。PTSを直接利用できるのは証券会社ですが、証券会社の顧客である投資家が売買注文時に「PTS発注」あるいは「SOR発注」を選択することで、PTSに発注することができます。

現在、日本ではジャパンネクスト証券とCboeジャパン、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の3社がPTSを運営しています。


本記事に掲載されている全ての情報は、2021年11月18日時点の情報に基づきます。

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