株式

2022.08.05

投資先選定にも影響あり?改めて考えたい「株主優待」の意味と投資の目的

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株主に対して自社製品やギフトなどを進呈する「株主優待制度」を導入する企業は年々増えてきました。株主優待をもらうことを主な目的として、投資を行ってきた方も多いのではないでしょうか。 しかし、最近では株主優待制度を廃止する企業もでてきました。ただ株主優待をもらうだけではなく、改めて株主優待の意味や投資の目的を考える必要性が高まっているのかもしれません。 今回は、株主優待について多くの企業への取材を行っているFPの高山一恵さんに、株主優待が果たす役割とこれからの投資についての考え方をお伺いしました。

今回お話を伺ったのは…

株式会社Money&You取締役 ファイナンシャルプランナー 高山一恵さん:慶應義塾大学文学部卒業。2005年に女性のためのFPオフィス、株式会社エフピーウーマンの設立に参画する。その後、2015年に株式会社Money&Youの取締役へ就任。現在は講演活動や執筆活動、相談業務のほか、月400万PV超のお金に関する情報サイト『Mocha(モカ)』の運営などを通じて、お金の知識を伝える活動を精力的に行なっている。著者に『はじめてのお金の基本』『はじめてのNISA&iDeCo』など。

そもそも株主優待はどんな仕組み?

― まずは基本的なおさらいからお伺いします。そもそも、株主優待とはどのような制度なのでしょうか?

高山さん:株主優待とは、企業側が株主に対して贈るプレゼントのようなものですね。株主優待制度を導入する企業は年々増えていて、上場企業が3,800社以上ある中で、約1,500社にも上ります。

― 株主優待をもらうためにはどうしたらよいのでしょうか?

高山さん:銘柄によって優待をもらうために必要な株式数は異なり、最低単元の100株を保有するともらえる銘柄もあれば、500株以上保有しないともらえない銘柄などもあります。

株主優待をもらうには「権利確定日」の2営業日前までに必要な株式数を買っておく必要があり、権利確定日の2営業日前を「権利付最終日」、その翌日を「権利落ち日」といいます。

株主優待が人気の企業だと、権利付最終日に向けて株価が上がっていく傾向がありますよね。反対に、権利落ち日には株主優待目当ての株主が一気に売却することで、株価が下がる傾向があります。

― 株主優待の有無が株価の動きに影響している例ですね。高山様がこれまで見てきた中ではどのような銘柄がありますか?

高山さん:最近は相場が乱高下することも多く、なかなか規則的な動きをしない印象があります。あくまでも過去の動きになりますが、「すかいらーくHD」はそのような傾向が出やすかったと思います。系列の飲食店で使える優待カードがあり、株主にとっては身近なシーンで活用できる、人気の企業ですね。

株主優待について、国内外の比較

― ここから、日本と外国の違いについてお伺いします。株主優待は日本独自ともいえる制度で、外国では存在しません。なぜ日本では株主優待制度ができたのでしょうか?

高山さん:株主優待をきっかけに、個人株主を増やす狙いがあるからでしょう。株主優待をきっかけに個人株主が増えたという事例はこれまでにもたくさんありました。株主が多ければ多いほど、企業の安定にもつながりますし、やはり自社製品のファンづくりにもなりますよね。

― たしかに、株主優待をきっかけに企業に興味を持ち、ファンになることもありそうですね。

高山さん:株主優待を“株主とのコミュニケーションツール”として考えている企業も多いんですよ。例えば、株主優待で自社製品を使ってもらって、アンケートなどで感想や意見を集めるといった活用もなされています。

― 一方で、外国ではどのように株主還元を行っているのでしょうか?

高山さん:基本的に、外国では配当金として株主還元を行います。あとは「自社株買い」によって還元するケースも多いですね。自社株買いをすることで市場に流通する株式数が減るため、1株あたりの価値が上昇します。

株の価値を測る指標としてEPS(1株あたりの利益)などがありますが、EPSは企業の当期利益を発行済株式数で割ることによって求められます。そのため、自社株買いによって発行済株式数が少なくなればEPSが増えるので、株主が保有する株の価値が上昇します。結果的に株価が上昇する可能性もあり、最終的に株主還元につながります。

― 配当や自社株買いによる還元は日本企業も行っていますが、日本と比べて還元の姿勢は強いのでしょうか?

高山さん:日本株の配当は年1~2回の企業がほとんどですが、米国株の場合は年4回の配当を行う企業が多いです。私も米国株を保有していますが、米国株は連続増配している企業も多く、利益を還元する姿勢が強く見られますね。

― 株主優待として「モノ」を還元するのは、日本特有なのですね。

高山さん:モノをもらうと嬉しいという日本特有の文化のようなものも影響しているんでしょうね。「株主優待で暮らす」のようなライフスタイルに注目が集まるのも日本ならではですね。

株主優待が廃止されるのはなぜ?

― 株主優待制度の廃止が度々話題になっていますが、企業側の考え方に変化があるのでしょうか?

高山さん:東京証券取引所の市場区分が変更になったことで、上場基準の一つである「株主数」も変更されました。東証一部の上場基準は「株主数2,200人以上」でしたが、プライム市場の上場基準は「株主数800人以上」に変更されています。

必要な株主数が大幅に少なくなったことで、個人株主を積極的に集めなくて良くなったことなども廃止の理由として考えられるのでないでしょうか。

※市場区分について、詳しくはこちらの記事もご覧ください
東証の市場区分|再編はどのように投資家に影響するのか


― 上場のための個人株主を増やす施策として、無理をしてまで株主優待制度を続ける必要がなくなったということですね。

高山さん:また、株主優待制度は国内の個人株主を対象にした制度なので、基本的に機関投資家や海外投資家は、受け取れません。「公平性」という意味でも配当金を重視する考え方に変わってきたともいえるのでしょうね。

― 株主優待に力を入れることで、企業側にはデメリットもあるのでしょうか?

高山さん:これまで多くの企業に取材してきましたが、株主優待に力を入れている企業であればあるほど株主数が増え過ぎて、優待送付のためのコストや準備などの事務負担がかなり大きくなっているようです。

株主優待は最低単元の100株でも受け取れる企業が多いので、株主優待を目的に株を購入する方は小口の投資になりやすいですよね。

― 株主優待がなくなると、企業の負担は減るということですね

高山さん:そうですね。株主優待制度の廃止によって、企業側のコスト削減や事務作業の軽減につながります。その分注力している事業に人やお金を投資したり、配当という形で還元したりといったことにもつながりますよね。

― 株主優待廃止の流れは続くと思われますか?

高山さん:私が株主優待をテーマとした取材をしている中では、株主のためにと企業を上げて取り組まれているところもある一方、「株主優待を廃止します」とか「縮小する予定です」とおっしゃる企業もやはり増えています。今後も株主優待制度を廃止する企業は増えるかもしれませんね。

「株主優待をもらう」ことを目的としている人へ、改めて考えてほしい”投資の目的”とは

―株主優待制度が縮小する可能性がある今だからこそ、改めてどのように投資の目的を考えたらよいでしょうか?

高山さん:株主優待がなくなるとしたら、投資することで企業の成長に貢献することを考えたり、応援したい企業かどうかを考えたりすることが大事だと思います。資産形成という側面からいえば、業績や経営戦略、成長性などを確認することが大事ですよね。

―これまで株主優待を目的にしていた方も、投資の基本に立ち返ることが大切なのですね。

高山さん:そうですね。株主優待目的で投資をしている方の中には、優待をもらって満足している方もいらっしゃるんですよね。私のところへ相談に来られる方でも、株価が下がっていても「まあいいや」みたいな考え方をする方も実際にいらっしゃいました(笑)。そのあとに企業が復調するならよいのですが、そういった考え方がなくモノ目当てに株を持ち続けるだけになってしまうのはもったいないですよね。

また企業側でも、自社製品を贈るような株主との関係性づくりではなく、商品券などで還元している企業は、株主優待の在り方を考える流れがあるかもしれません。

株主にとってはこれを機に、「モノをもらえなくても持ち続けたい株なのか」と改めて投資の意義を考えることが大切だと思います。

―高山様がこれまでお受けした相談の中で、株主優待に関する相談にはどのようなものがありますか?

高山さん:「どのような優待が人気ですか?」「どのような企業がおすすめですか?」といった相談が多いですね。あとは「優待廃止になっても企業の経営状況は大丈夫ですか?」という相談もありますね。

―「経営が悪化したんじゃないか」という株主としての不安があるわけですね。

高山さん:そういうご相談を受けたときは、企業の売上高や利益など、財務体質をしっかり見ましょうと伝えています。

経営状況が悪くて株主優待制度を廃止するのか、前向きな企業方針の変化などによって廃止するのかでは状況が違いますよね。そういった情報を自分で調べて、自分がこのまま投資を続けるのか、見極めることが大切だと思います。

※高山様が語る投資の目的について、詳しくはこちらをご覧ください
「投資の失敗=損すること」とは限らない!人気FPが語る

企業を応援するという投資の目的について考えてみましょう

― 最後に、読者の皆さまへメッセージをお願いいたします。

高山さん:私も株主優待は好きなんですよ。取材をする中で、「株主に企業のファンになってもらいたい」という担当者の方の思いもたくさん聞いてきました。でも、ただモノをもらえるだけでなく、投資にはお金を増やすという側面もあり、社会に貢献するという意味合いも大きいですよね。

最近は米国株に資金が流れがちですが、自分が住んでいる国の企業を応援する意味でも、投資本来の目的に立ち返ってみることが大事だと思います。

先にお話ししたように、株主優待を“株主とのコミュニケーションツール”として重要視している企業は多いので、もし廃止されることになっても、レターや動画など、企業から発信する新しいコミュニケーションを積極的に受け止めて、投資に役立てていけるといいですね。
※あくまでも高山さん個人の見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引を誘引するものではありません。

本記事に掲載されている全ての情報は、2022年7月15日時点の情報に基づきます。

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