金融・投資

2023.07.31

Introduction

本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

キリオフィス代表、株式投資スクール講師、CFPファイナンシャルプランナー。個人投資家として2010年より株式投資をはじめ、5年で資産を10倍に増やす。数字オンチの人も含め普通の人が趣味として楽しめる株式投資を広めるため、講師、講演者、パーソナルトレーナーとして活動中。講座は特に女性に人気で、毎回キャンセル待ちが出るほど。著者に「月収15万円からの株入門 数字オンチのわたしが5年で資産を10倍にした方法」「ド文系女子の株の達人が教える 世界一楽しい!会社四季報の読み方」(https://www.amazon.co.jp/dp/B09PB1FT8H/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1)など。
YouTube:藤川里絵の女子株CH『はじめの一歩』 - YouTube(https://www.youtube.com/channel/UCrsiRmd8Bq7CmaXljd8PDKw
 年に4回発売される会社四季報には、上場企業約3,800社全社の必要な情報がすべて掲載されています。株式投資を長く続けている個人投資家さんなら、たいていの人が四季報を銘柄探しのツールとして利用しているでしょう。ただ、記事欄まですべて熟読しているという人はあまりいません。なぜか? おそらくタイパ、コスパが悪いと思われているからだと思います。
 わたし自身は、業績欄の数字を見るよりも、記事欄を読むほうが好きです。数字にはまだ現れていない大きな変化の最初のざらつきを、記事欄の文面から発見することが多々あるからです。たしかに、記事欄をすべて読むのは時間がかかりますが、これから大きな変化を遂げようとしている企業を、ほかの投資家さんよりも先に見つけることができたら、かけた時間以上の見返りが得られます。お手元に四季報がある方は、騙されたと思って、記事欄読破にチャレンジしてみてください。

四季報新春号で感じた変化の卵

四季報記事欄を毎号読んでいると、急に特定の単語がひっかかることがあります。それが大きな投資のヒントになるので、ぜひそういった感覚を得た単語はメモしておくことをおすすめします。
 直近発売された2023年新春号でも、ざらつきを感じた単語がありました。「縦読み」です。縦読み型電子コミック、縦読みカラー漫画、縦読み漫画、表現方法はいろいろですが、つまりは縦読み型の電子コミックに関する記述が目立つのです。
 「縦読み」というフラグが立つと、いろんなところで「縦読み」が気になり始めます。電車で隣に座った人が縦読み漫画を読んでいたり、友人から縦読み漫画をオススメされたり、縦読み漫画の記事がSNSで流れてきたり。こうなってくると、投資テーマとして「縦読み漫画」を無視することはできません。

コミック界では”縦読み”が主流に?

 低迷しつつある出版業界に希望の光を灯しているのは、電子書籍市場です。紙媒体が右肩下がりであるのとは反対に、電子出版は順調に成長しており、出版科学研究所によると16年に1491億円だった国内市場は、5年で2.8倍の4114億円となっています。そのうち電子コミックは、市場全体の約9割を占め、紙の漫画市場(2645億円)の1.5倍以上あります。
 スマホが普及する中で、漫画をスマホで読む人も増えています。スマホで読むには、見開きでページをめくって読む従来のフォーマットより、画面を縦にスクロールして読み進める縦型のほうが読みやすく、今や電子漫画の主流は縦型になっています。
 もともとは、韓国で2004年に始まった「NEVER WEBTOON」の流行がきっかけで、ウェブトゥーンと呼ばれる縦スクロールの漫画が、韓国だけではなく、中国、アメリカと世界中に広がりました。漫画文化は日本のお家芸ではありますが、普段、日本の漫画を読まない人には、縦読み漫画が自然なフォーマットなのです。
 日本は、見開きの漫画文化が定着していただけに、縦読みフォーマットへの参入に乗り遅れましたが、2022年11月に行われたMMD研究所の「WEBTOON利用者に関する調査」では、コミックアプリサービス利用者の4割以上が、WEBTOONの閲覧経験があり、5割以上がWEBTOONを週に1回以上読んでいるという結果が出ています。どうやら漫画読者は、かなりのスピードで縦読み派へ移行しているようです。(https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2152.html

四季報で見つけた関連銘柄

 四季報新春号で「縦読み」というワードが出てきた銘柄は、全部で6銘柄。
パピレス(3641)、メディアドゥ(3678)、ディー・エル・イー(3686)、アカツキ(3932)、Link-U(4446)、and factory(7035)です。記事欄から察するに、おおむねどこの企業も、これから縦読み漫画市場に本格参入しようとしているところで、はっきりと収益化できている感じではなさそうです。逆にとらえれば、これから縦読み漫画が、成長ドライバーとしての役目を果たす可能性があるということなので、投資家としては分析しがいがあります。
 6銘柄の中で、とくに気になった銘柄をふたつ紹介しましょう。
 まずはLink-U(4446)。電子書籍事業に注力を置く企業で、四季報記事欄には「人気IP持つ韓国企業とウェブトゥーン(縦読み型電子コミック)制作・流通の合弁設立。」とあります。
 2月14日に発表された2023年7月期の第1四半期決算の説明会資料によると「D&C Mediaの所有する韓国の人気Web小説などを原作としてWebtoon制作を開始。」と書かれています。なんといっても韓国は、ウェブトーンの本場ですから、期待が持てます。
 業績は、巣篭もり特需の反動や、開発費用による圧迫もあり、2022年7月は減益着地となりましたが、23年7月期はV字回復予定です。回復を牽引しているのは、国内・海外での漫画事業で、さらにここに縦読み漫画が加われば、一段と飛躍してくれるのでは?
 会社が発表している中期経営計画では、2026年7月期には、売上60億円、営業利益12億円を目標としており、2023年7月期予想から、売上は約2倍、営業利益は約4.7倍となります。
 もうひとつ当社に期待が持てる理由は、プライム市場の上場維持基準の流通株式時価総額を現状満たしていないため、上場維持するために、企業価値向上の努力を意識的に行う可能性が高いことです。
 2022年12月14日に発表した「上場維持基準の適合に向けた計画に基づく進捗状況」というリリースには「企業価値の向上と、株式市場で適正な評価を得ることが課題と認識しております」と書かれており、株価上昇への意識が高いことが分かります。
 具体的な取り組みのひとつとして、自社コンテンツの制作に注力するWebtoonへの投資を掲げていますので、会社としても縦読み漫画を成長の柱として力を入れていく姿勢が読み取れます。
 もうひとつはアカツキ(3932)、スマホ向けゲームの企画・開発・配信会社です。漫画よりはゲーム色が強い会社ですが、四季報新春号の記事欄には「アプリ『ハイクコミック』は川原礫新作小説の縦読み漫画版の連載を開始。コンテンツの強化を図る」とあります。また、前号の2022年秋号には「縦読み漫画には20億円投じて事業確立を目指す」と記載されており、本気度がうかがえます。
 当社は、通期予想を出していないので、頼りになるのは四季報予想です。23年3月期は先行投資が重石となり前年比で減益予想ですが、24年3月期にはV字回復予想。株価は、2017年8月に11,070円という上場来高値をつけたのち、ずるずると下げ続け、現在2,200円台とかなり低位置にあります。縦読み漫画が収益化され、業績が上向いてくれば、株価もふたたび上向くのではないでしょうか?

実際、縦読み漫画ってどうなの?

 正直、紙の漫画世代であるわたしにとって、そもそも電子コミック自体に馴染みがありません。スマホで漫画を読むなんて、と多少の抵抗はありましたが、試せるものはなんでも試してみるのが投資家としての正しいあり方。ひと足お先にWebtoonデビューした友人におすすめ漫画を聞いて読んでみたところ、たしかに読みやすい! スクロールするので、流れるようにストーリーが展開し臨場感があります。縦読み漫画は、基本的にカラーなんですね。それもプレミアム感があってよい。一話一話が短いので、電車など移動時間にさくっと読めるのも、なるほどタイパ重視のZ世代に好まれるわけです。一度縦読み漫画を経験したら、従来の見開き漫画には戻れない不可逆性を感じました。
 つい先日、2月9日には、なんと大日本印刷(7912)が、縦読み漫画アプリに参入、2月下旬にサービス開始というニュースが流れてきました。大日本印刷が始める漫画アプリ「ホンコミ」は、出版社や制作会社など30〜40社と連携し、作品数は当初1000以上で、2025年には、連携先を増やして1万作品を計画しています。利用者は、年内に十数万人、25年には50万人を獲得し、27年度に事業売上高30億円を目指すとのこと。
 時価総額1,000億円以下の小粒企業がひしめく電子書籍業界に、時価総額1兆円を超える大企業が乗り込んでくるとなると、業界全体に大異変が起こる可能性も。なんだかワクワクしますね。
 まだまだ未知数の縦読み漫画市場ですが、数年後には大きな市場に化けているかもしれません。
※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が個別企業の紹介、特定の個別銘柄の推奨、または取引の誘引をするものではありません。
本記事に掲載されている全ての情報は、2023年2月22日時点の情報に基づきます。

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