金融・投資

2023.05.31

本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

キリオフィス代表、株式投資スクール講師、CFPファイナンシャルプランナー。個人投資家として2010年より株式投資をはじめ、5年で資産を10倍に増やす。数字オンチの人も含め普通の人が趣味として楽しめる株式投資を広めるため、講師、講演者、パーソナルトレーナーとして活動中。講座は特に女性に人気で、毎回キャンセル待ちが出るほど。著者に「月収15万円からの株入門 数字オンチのわたしが5年で資産を10倍にした方法」「ド文系女子の株の達人が教える 世界一楽しい!会社四季報の読み方」(https://www.amazon.co.jp/dp/B09PB1FT8H/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1)など。
YouTube:藤川里絵の女子株CH『はじめの一歩』 - YouTube(https://www.youtube.com/channel/UCrsiRmd8Bq7CmaXljd8PDKw

Introduction

 野球にはまったく興味のないわたしですら、かぶりついて応援してしまったWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)。といっても、準決勝戦からのスマホ観戦なので、開幕当初から応援している人からすると、横入りで何を!?といった感じかもしれません。とはいえ、まったく無関心だったというわけではないのです。
というのも、こういった大きなスポーツイベントは、株式市場にも波紋を起こします。活躍した選手が使っているスポーツ用品メーカー、身につけているアクセサリー、観戦する場所を提供している飲食店など、その時々で株価が噴き上がることがよくありウカウカしていられないのです。

名前が被るだけでも株価は暴騰!?

 今回のWBCでは、開幕前日の3月7日から、期間途中の3月15日までに株価が約4倍にまで暴騰した銘柄があります。なんとその名は大谷工業(5939)。大谷選手関連銘柄と言うべきなのでしょうか?3月6日の終値は4,345円、翌日から徐々に上昇をはじめ、8日から連続ストップ高。15日には、なんと16,050円をつけました。
 大谷工業は、電力向け架線金物の加工メーカーで、大谷選手とも野球ともまったく関係ありません。それでも株価は4倍に上がってしまうのが株式投資のおもしろさです。
 もうひとつ、3月22日の寄り付き前には、村上開明堂(7292)が制限値幅いっぱいの買い気配となりました。もちろんこれは、前日の準決勝で9回裏にさよならヒットを放った村上選手関連銘柄と言えるのでしょう。ちなみに同社は、自動車用のバックミラーメーカー大手です。こちらも村上選手にも野球にも関係ありませんね。
 こういった銘柄の売買はデイトレーダーさんにとっては、格好の売買材料になります。バカらしいと思いながらもお祭り騒ぎに乗っかるのもよし、冷めた目で傍観するのもよし。なんでもかんでも投資に結びつけてしまう投資魂には、同じ投資家としても脱帽です。

スポーツブランドは業績好調!

 WBCの熱狂からは少し距離を置き、冷静にスポーツビジネスを俯瞰すると、じつは絶好調であることが分かります。直近のスポーツブランドの決算はかなり好調でした。
 まずは国内売上規模1位のアシックス(7936)。2月10日に発表された22年12月期の本決算では、売上高前年比19.9%増の4,846億円、営業利益は、前年比54.9%増の340億円。当期は、2回上方修正しています。
 アシックスのスター商品は、マラソンや駅伝で使用されるシューズで、これは欧米でもかなりの人気を博しています。健康志向の高まりでランニング人口が伸びていることや、Eコマースでの販売比率を高めて利益率が改善していることも好感できます。
 売上規模第2位のミズノ(8022)も快調です。2016年、メジャーリーグに挑戦する前に大谷選手とスポンサー契約を結んでおり、彼が使用する野球用品(グローブ、シューズなど)は同社の製品です。当然、WBC開催中に株価は噴き上がる場面もありましたが、その一時的な過熱感を除いても、業績株価は堅調。
 コロナをきっかけに盛り上がっているゴルフ熱も追い風で、利益率の高いゴルフクラブが業績を牽引しています。そのほか、サッカー、バレーボール、バスケットボールとスポーツ領域を幅広くカバーしており抜け目がありません。
 個人的に注目しているのは、アパレル寄りのスポーツブランド・デサント(8114)。ひと昔前は、値引き販売が当たり前の少し安っぽいイメージが先行していましたが、近年は利益率、返品率の改善につとめ、イメージもかなりよくなっています。
 23年3月期は、子会社である韓国での業績が好調で、2回上方修正し、大幅増配も発表しています。

アスレジャーがめきめき成長

 最近、「アスレジャー」というアスレチック(運動)とレジャー(余暇)を掛け合わせた造語を耳にすることが増えました。これはスポーツやキャンプなどで着用する高機能ウェアにファッション性を加え、街着として着用することや、そういった商品のことを指します。デサントは、上手にこの流れに乗っており、とくに中国でのアスレジャー需要を取り込んでいます。
 アスレジャーで頭ひとつ抜き出ているのは、ゴールドウイン(8111)の「ザ・ノース・フェイス」ではないでしょうか? この冬もロゴ入りのダウンをあちこちで見かけました。ブランド力が高いため、高価格でも受け入れられるところが強み。営業利益率は、16%超と一桁台がほとんどの同業他社の中で、グンを抜いています。2026年には、富山県に自然がテーマの施設を開設予定なのでこちらも期待できます。
 じつは「アスレジャー」という言葉は、1990年代後半に生まれていますが、定着してきたのはつい最近のように思います。コロナ禍で、服装がぐっとカジュアルになり、部屋着と仕事着と外出着の区別が曖昧になりました。わたしのクローゼットにも、スウェットやレギンスといったアイテムが増え、そのままちょっと出かけるということも。となれば、さすがにヨレヨレのスウェットで出かけるのも気が引けるので、ちょっといいスウェット、いいレギンスなんかを選ぶようになります。それがまさに「アスレジャー」が定着した理由だと思われます。
 さすがに、レギンス1枚で電車に乗るのは気が引けますが、渋谷あたりでは脚の長い若者が、スタイルのよさを見せつけるかのようにレギンス+パーカーといったアスレジャースタイルで闊歩しています。
 アスレジャーは、通常のスポーツ着より高価格帯で利益率が高いため、今後は、ほかスポーツブランドも積極的に参入してくるのではないでしょうか?

透けないレギンスで世界2位のスポーツアパレルに!

 海外に目をむければ、アスレジャートレンドにのって急激に成長したカナダ初のブランドがあります。ヨガウェアを展開するルルレモン・アスレティカ(LULU)で、日本では六本木や丸の内、原宿などに店舗があります。ヨガをしている友人に聞くと「少し値段は高いけど、一度着るとほかのブランドのものは着られない」と絶賛。現在、時価総額は5兆円、アディダスを抜いて世界2位のビッグスポーツアパレルブランドとなっています。
 ルルレモンを人気ブランドに成長させたのは「透けないレギンス」。そう言われれば、ひと昔前のレギンスは、肌が透けて見えるのが普通で、それゆえにレギンス1枚で街着にするなんてことは無理だったのです。創業者のチップ・ウィルソンは、ヨガブームが来ることを見越し、機能性と着心地を備えた透けないレギンスを開発、1枚100ドル程度の強気な価格設定で提供し、見事当たったというわけです。
 現在はヨガウェアだけでなく、ランニング、フィットネス、ゴルフ、テニスと多数のカテゴリーに進出。最近はメンズウェアも人気のようです。
 業績は拡大継続中ですが、去年のNASDAQ指数下落につられ、同社の株価もやや足踏み状態です。今年に入って、NASDAQ指数は反転の兆しを見せていますので、同社の株価もふたたび上昇トレンドに乗るかもしれません。

誰にでもなんらかの接点があるスポーツビジネス

 ここまではスポーツブランドをメインに取り上げましたが、スポーツにはいろんなビジネスが関わってきます。スポーツを開催する場所、広めるためのメディア、チームをサポートする組織、選手活動を支えるスポンサーなど。自分がスポーツをしなくても、なんらかの形でスポーツビジネスと接している人は多いのではないでしょうか? 
 最近では、ゲームをオンラインで競うeスポーツ(Electronic Sports)という分野も成長しています。2022年アジア競技大会(2023年秋開催予定)では、eスポーツが正式種目に採用されることが決定されており、株式市場でも投資テーマとして、取り上げられることがチラチラ出てきました。
となるとインドア派の投資家も、スポーツビジネスを投資対象として物色する妙味があると思います。
 なんといってもスポーツは分かりやすいですし、初心者の方にもとっつきやすいテーマです。趣味として楽しむだけでなく、株式投資のヒントにしてみてはいかがでしょう?
※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が個別企業の紹介、特定の個別銘柄の推奨、または取引の勧誘をするものではありません。
本記事に掲載されている全ての情報は、2023年3月27日時点の情報に基づきます。

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