よるかぶコラム

2024.02.22

ジャパンネクスト証券CEOが解説! そもそもPTSって?【後編その1】

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よるかぶラボをご覧の皆様、ジャパンネクスト証券CEOの山田です。
大変遅くなりましたが、2024年もよろしくお願い申し上げます。
PTSについてのコラムの前編を掲載してから、早くも9ケ月が経過してしまいました。今回は後編として一気にPTSを支える技術とPTSの今後について解説させていただければと思います。

PTSを支える技術

①テクノロジー

前編で制度の変化について解説させていただきましたが、それと同様にPTSの発展に重要なファクターは技術(=ITシステム)の進歩です。取引所というと、日本においても25年ほど前までは、立会市場で取引をしておりました、立会市場というのは「場立ち」という証券会社の担当者が手サインで投資家の注文を取り次ぎ、売買を成立させるものでした。

(東京証券取引所の立会の様子)

(データセンタ内のサーバー群)

それが現在は、ITシステムが取引を成立させております。しかもその速度は、100万分の1秒よりも小さい単位を競うものになってきています。この人間からシステムへの変化は極めて大きなものでした。取引所を含む取引施設は、多くの人を収容できるいわば豊洲市場とかバスケットチームのアリーナのような大きなスペースとインフラが必要であり、それを保持するための大きな資本を必要としましたが、現在は高性能データセンタがあればそれで事が足りる状況になっています。従いまして、現在兜町にある東京証券取引所の建物は、正確には取引所跡であり、ショールームおよび貸し会議室と言えるもので、実際の取引は都内某所のデータセンタで行われております。
東京証券取引所は富士通製のアローヘッドという取引システムを2010年より稼働させています。一方、当社はNASDAQ社製のエクストリームという世界最速を争うマッチングエンジンを導入しております。システムの優越に関しては、外部の評価にお任せするしかないのですが、お客様の声からは、当社の取引システムの方が処理速度の観点から10倍程度速いのではないかと言われております。また、当社は取引を成立させるマッチングエンジン以外の周辺アプリケーションをほとんど自社で開発しております。そのため、万が一のトラブルの際にも、素早く、抜本的な対応が可能になっております。結果的に当社は創業以来一度もダウンタイムがなく、システムの安定運用を達成しております。
加えて、当社は毎5年ごとにサーバーやスイッチ等取引システムにかかるハードウェアをすべて交換しております。このハードウェア・リフレッシュにより、当社の取引システムは常にその性能が十分に発揮できる状況になっております。
システムを導入するだけであれば、資金があれば誰でも可能です。当社はそのシステムの運用の精度を高めることが、取引施設の優越を決めると信じています。取引施設は投資家の皆さま方の命の次に大切なお金の取引を取り扱っております。当社は一日当たり数億件の注文を受けておりますが、万に一つどころか億に一つのミスも許されない中、より速く、より良い条件の取引を成立させるため、細心の注意を払い当社のスタッフによるシステムオペレーションを行っております。
このように、現代の取引施設においては、取引システムやそのオペレーションを含むテクノロジーが、取引のクオリティを決める時代なのです。

②マーケットメーカー

続いて、現代の取引には欠かせないマーケットメーカーについて説明します。マイケル・ルイスの小説「フラッシュ・ボーイズ」に影響を受けた日本人は、マーケットメーカーというだけで、投資家の利益をくすねる悪い奴らだと考えがちです。その考えは大部分で間違っており、マーケットメーカーは現在の日本のマーケットにおいてなくてはならない存在になっています。実際にザラ場中の取引量の半分弱はマーケットメーカーの取引であると推定されます。
市場におきましては、取引所のオークション(たとえば寄り付きや引け)を除くと、売りと買いがにらみ合うことが予想されます。たとえばある銘柄を100円で買いたい人と、101円で売りたい人がずっとにらみ合っていたら、取引は成立しません。そこでマーケットメーカーが登場し、常に売り買いの気配を提示しながら、アルゴリズムに基づき101円で売りたい人の株式を買い取ったり、100円で買いたい人の株式を売ったりします。マーケットメーカーは流動性を供給するだけで、株価の上げ下げには興味がないので、一日売り買いをしてわずかな利益が残るという商売なのです。彼らにとっては、相場勘や株価の上げ下げではなくアリゴリズムの優越が勝負を決めるということになるのです。
歴史的には、米国市場にはかなり昔からこのような自己勘定のリスクを取りながら流動性を供給するマーケットメーカーが存在しました。日本においては証券取引法制定時にマーケットメーカー制度を導入する議論もありましたが、当時証券会社は資本金が小さく自己勘定でリスクをとることが容易ではなかったので、制度導入は見送られました。
その後、取引施設のシステム化とともに、再度マーケットメーカーに脚光が当たることになりました。ただし以前のように人間がマーケットメイクをやるのではなく、アルゴリズムを駆使しナノ秒単位で注文を発注する完全にシステム化されたマーケットメーカーが現在の主流です。
マーケットメーカーの有名どころとしては、アメリカ全体の株式やデリバティブの4割程度の取引を行っていると言われ、個人資産が210億ドル超と言われるケン・グリフィンが率いるCitadel社、NASDAQ上場で、5年間に1日しか損失を出さなかったことで有名なVirtu社、数学者とコンピュータエンジニアが設立し200名以上の博士号取得者で運営されているクオンツファンドのTwo Sigma社などが挙げられます。
PTSや取引所はマーケットメーカーからの発注を正確に受け止め、投資家の皆さまに流動性を供給するためにも、高度なシステムおよび確実なオペレーションが必要となっているのです。
PTSのテクノロジーやマーケットメーカーの解説だけでも、まだまだ私の解説だけでは足りない部分が多いと思われますので、興味のある方はいろいろ調べてみてください。
なお、PTSの今後に関しましては後編その2で解説させていただきたいと思います。
ジャパンネクスト証券株式会社 CEO 山田正勝(やまだ・まさかつ)

ジャパンネクスト証券株式会社 CEO 山田正勝(やまだ・まさかつ)

1989年に慶應義塾大学卒業後、野村證券、パリバ証券(現・BNPパリバ証券)において主に金利ビジネスなどを担当。1999年に金融監督庁(現・金融庁)に入庁し、金融検査や各種マニュアル作成に従事。その後、BNPパリバ証券およびみずほ証券におけるリスク関連のシニアポジションを経て、2015年にSBIジャパンネクスト証券株式会社(現・ジャパンネクスト証券株式会社)に入社。COOを経て2020年より現職。

PTSとは何か

(前編でご紹介)

PTSの今後

(後編その2でご紹介)

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