金融・投資

2023.06.28

本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

キリオフィス代表、株式投資スクール講師、CFPファイナンシャルプランナー。個人投資家として2010年より株式投資をはじめ、5年で資産を10倍に増やす。数字オンチの人も含め普通の人が趣味として楽しめる株式投資を広めるため、講師、講演者、パーソナルトレーナーとして活動中。講座は特に女性に人気で、毎回キャンセル待ちが出るほど。著者に「月収15万円からの株入門 数字オンチのわたしが5年で資産を10倍にした方法」「ド文系女子の株の達人が教える 世界一楽しい!会社四季報の読み方」(https://www.amazon.co.jp/dp/B09PB1FT8H/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1)など。
YouTube:藤川里絵の女子株CH『はじめの一歩』 - YouTube(https://www.youtube.com/channel/UCrsiRmd8Bq7CmaXljd8PDKw

Introduction

値上げ値上げ、すでにもう聞き飽きたワードですが、つい今朝(6月21日)のこと、「今年度も」5割超の外食企業が値上げを予定しているとの新聞記事を見かけました。とくに外食産業は、材料費、人件費、輸送費、光熱費と営業するために必要なものがすべて高騰しているため、値上げせざるを得ない状況です。
22年度は、外食企業全体の93.9%が値上げしたとのことなので、前年度に続き、複数回の値上げを考えている企業が多いことがわかります。記事によると「長崎ちゃんぽん」は、この1年で3回目の値上げを行うとあり、多少の値上げでは、費用負担の増加を補えない厳しい環境が見うけられます。

企業物価指数と消費者物価指数の乖離は徐々に解消

日本では、長くデフレが続いたために、値上げに対する抵抗感が諸外国より高いと言われています。かつて鳥貴族がほんの数十円の値上げをしただけで、客足が遠のき業績が悪化したというのは株式市場では有名な話。そのためできるだけ企業は、原材料などの費用が増加しても、涙ぐましい節約などの事業努力でなんとか商品への価格転嫁を避ける傾向にありました。
ところが、さすがにそれも限界を超えたのでしょう。
日本銀行が発表している企業物価指数*は、2022年12月に前年比で10.6%上昇していますが、消費者物価指数*は、同じく12月の前年比で4%上昇と、6%以上の乖離があります。つまり企業は、原材料高などの負担を、消費者に届ける価格に転嫁しきれていない状況。それが、6月12日に発表された5月の企業物価指数は前年比5.1%上昇、6月23日に発表された5月の消費者物価指数は3.2%上昇とかなりその差が縮まっています。
つまり企業が、徐々に価格転嫁を行っていることが分かります。
*企業物価指数:企業が商品を作るためにかかるお金の変化を示す数値。
*消費者物価指数:わたしたち消費者が消費するモノやサービスの値段の変化を示す数値。

インフレの時代に突入したと肌で実感

じつはこの1年で、あのとき買っていれば!と感じたことが3回あります。
一度目は、長年使った洗濯機を買い替えたとき。たしか去年の4月くらいに買い替えようと思ったものの、まだ壊れていないからと先延ばしして、8月に再度同じ機種の値段を見たら5万円以上、価格が上昇していました。
二度目は、コロナ前から目をつけていた某ジュエリーブランドのブレスレット、こちらは1年で2割以上値上がりしていました。
三度目は、つい最近のこと、4月にアートフェアで見つけて一目惚れした絵ですが、なかなか購入する踏ん切りがつかず、何かのご褒美で買おうと思っていたら、6月に値上げしてしまいました。ちなみに冷蔵庫と絵は値上げ後に購入、ブレスレットは諦めました。
この経験から、欲しいものはそのときに買わないと、その値段では今後手に入らない可能性があると考えるようになりました。
日本もインフレになるとかなり前から警告されていたエコノミストのエミン・ユルマズ氏の著書「世界インフレ時代の経済指標」にはこう書かれています。
『過去30年も続いたデフレ経済によって、皆さんの脳はデフレに慣れきっています。つまりデフレ的な発想では、これからのインフレ時代を乗り切ることができません。現金を抱え込むのではなく、インフレに強い資産に替えておくか、もしくは必要なものがあれば今のうちに買っておくという消費行動が必要になります。』

海外からもデフレ脱却が評価されている

日経平均株価は、今年に入って30%以上も上昇しています。1月4日の大発会(その年のいちばん最初の取引日)の終値は25,716円、6月19日につけた年初来高値は33,772円なので、ざっくり8,000円も上げているのです。これだけ日本株が上昇している大きな理由は、外国人投資家の大人買いです。毎週発表される投資主体別売買動向では、なんと10週連続で外国人投資家は買い越しています。東証プライム市場で売買している投資家の7割が外国人投資家と言われているので、その影響力は甚大です。
外国人投資家が、びっくりするほど日本株を買い続けている大きな理由のひとつとして、日本がついにデフレ経済から脱却したことが挙げられています。日経平均株価はバブル崩壊後33年ぶりの高値をつけましたが、これは逆に言うと33年間、株価が上がらなかったといえます。その原因は、長く続いたデフレです。物の値段が上がらなければ、企業は儲からないので投資対象としての魅力はありません。緩やかにインフレが継続している欧米の株価指数はこの20年間で10倍以上に上昇していることを考えれば、デフレの功罪は大きかったと言えます。
それがついに、日本でもインフレ経済がやってきたのです! 諸外国に出遅れていただけに、そのインパクトは大きく、それが最近の急角度な株価上昇をもたらしているのです。

価格転嫁できた企業への評価は高い!

日本全体がまるっと値上げしているかというと、そういうわけでもありません。今まで安さで勝負していた企業は、安さを手放すことで競争力が落ちるためなかなか値上げに踏み切れません。多少値上げしても、消費者がついてきてくれる付加価値のある商品を提供できていないと、インフレ経済では生き残るのがむずかしくなるでしょう。
先日発売された会社四季報夏号では、価格転嫁が進み利益率が改善され、投資家からも評価されつつある銘柄が目につきました。わたしたちがよく知るところでは、STIフードホールディングス(2932)、企業名ではピンとこないと思いますが、セブンイレブン向けのおにぎりの具材や、サバやホッケの塩焼き、たこぶつなど水産系のお惣菜を提供していますので、一度は口にしたことあるのではないでしょうか? 四季報夏号の記事欄には「食材高の価格転嫁効果が想定超す」とあります。そもそも食品企業は利益率が低いため、1%でも利益率が改善されると業績にかなりのインパクトがあります。そのため株価への反応もよく、当社の株価も堅調です。
クリーニング最大手の白洋舎も四季報夏号の記事欄に「構造改革と値上げ効果でクリーニングの黒字拡大」とあります。白洋舎は、クリーニング事業のほか、ホテルの客室リネンやレストランのテーブルクロスを提供するレンタル事業がありますが、こちらはコロナで大ダメージを受けたため、2020年、2021年は赤字となりました。そこから徐々に回復し、2023年は会社予想で営業利益9億円(前年比35%増)、会社四季報の予想では、なんと17億円(前年比155%増)と大幅ジャンプアップが予想されています。こちらも株価は右肩上がりの上昇となっています。

インフレ経済へいざ、マインドチェンジへ!

日本株が上昇するのに慣れていないわたしたちは、ここのところの急騰に「どうしちゃったの?」「こんなに上がるなんておかしい」「どうせ続かないでしょ」とネガティブ思考で捉えがちです。しかし、日本経済の構造そのものが変わってきているとしたら、わたしたち投資家の日本株に対するマインドも変えていかなくてはいけません。
物価が上がれば、企業が儲かり、賃金が上昇し、さらに消費行動が活発化するといった正のサイクルが起きることを、今からイメージしておく必要があります。
株式投資は、まさにインフレ経済に向いている資産運用です。まだ日本のデフレ脱却は、始まったばかり。これから本格的なインフレ時代がくるとしたら、今からでもぜんぜん遅くありません。5年後、10年後に後悔しないために、今こそ、株式投資を始めてみませんか?
※本記事に掲載されている全ての情報は、2023年6月27日時点の情報に基づきます。

※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が個別企業の紹介、特定の個別銘柄の推奨、または取引の勧誘をするものではありません。

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