本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
Introduction
これだけいろんなものの値段が上がってくると、さすがに値上げに対する受け止め方が変わってきます。先日、友人とお気に入りのお店にランチに行った際「クオリティに対して値段が安いのではないか」という会話をしました。そんな風に、よいものは値上げしても許容できる土壌が育ちつつあります。今、わたしたち消費者が求めているのは安さだけではなく、支払った対価に対して得られる納得感なのかもしれません。
東京在住のわたしの感覚では、ここ20年くらいずっと「ランチは1,000円以内」という感覚がありました。ちょっと贅沢を許すご褒美ランチで1,200円。ところがここ数年で、だいたいランチは1,200円から1,400円くらいになり、それくらい全体相場が上がっていると肌で感じています。訪れたお店のメニューに何度も書き換えられた軌跡が残っていたりして、価格改定のスピードの速さがうかがえます。かつては10円の値上げでニュースになった日本ですが、今やまた上がったか!という諦念に近い受容が広がっています。
しかし、見方を変えてみるとすべてのお店で値上げが許容される状況にはなっていません。値上げをした途端、魔法が解けたように客足が止まる店も存在します。
一方で、価格を上げてもなお、行列が絶えない店もあり、この明暗を分けているのは、コストを価格に乗せるだけの「価格転嫁(守りの値上げ)」なのか、あるいは顧客の期待を超える価値をセットで届ける「価値転嫁(攻めの値上げ)」なのかという戦略の差なのではないでしょうか。
宿命の対決!?:マクドナルド vs モスバーガー
インフレ局面における価値の見せ方において、最も興味深いのがハンバーガー業界の象徴的な2社である、マクドナルド(日本マクドナルド)とモスバーガー(モスフード)の戦略の違いです。
マクドナルドの価格戦略
日本マクドナルドは、かつては「安くてどこにでもある」という、いわば消費者全員に向けた一律のサービスを提供していました。しかし、このインフレを機に消費者の事情によって提供するメニューを分けるという「顧客のセグメント化」を行っているようです。
具体的には、価格を選好する層を対象に、「ちょいマック」や「エグチ(エッグチーズバーガー)」など、200円~400円台の商品を提供。
低価格を好む顧客や、学生を繋ぎ止める効果があるようです。
一方で、価格を選好しない層に対しては、「サムライマック」や期間限定の「ご当地バーガー」など、単品で600円~800円、セットで1,000円に迫るラインを提供。ここには、ビジネスパーソンやファミリー層を誘導しているようです。
また、朝・昼・夜で提供している価値を、朝マック=スピードと習慣、ひるまック=お得感と定番、夜マック=背徳感と満腹感(例えば1日のご褒美としてガッツリ食べたい)のように変えることで、利用シーンごとにもセグメント化しているようです。
加えて、公式アプリのデータ(購入履歴、位置情報、時間帯)をAIが分析し顧客最適化を実行。これは、普段、ハッピーセットを買う人にはファミリー向けのクーポンを。深夜にポテトLを買う人には、コーラとのセット割を。さらに、モバイルオーダーの決済直前に、「ご一緒にアップルパイはいかがですか?」と、その人が過去に買ったことのある、あるいは好みに近い商品を絶妙なタイミングで提案するといった恐ろしいシステムで、ついその提案にイエスと購入ボタンを押してしまうようにできています。
また、モバイルオーダーで並ばずに買えるというタイパのよさも価値提供として奏功しており、業績は、4期連続で過去最高益を更新見込みです。
モスバーガーの価格戦略
対するモスバーガーは、マクドナルドとは違う道を突き進んでいるように見受けられます。マクドナルドが総体的に「速さ・安さ・便利さ」を追求するなら、モスはどちらかといえば「待ってでも食べたいクオリティ」という情緒的価値に重きをおいているようです。
たとえば和牛の一頭買いを使用したプレミアムバーガーを地域限定、期間限定で販売するなど、特別感を全面推しした商品を提供。直近では、福島県で育てられた黒毛和牛や、双葉郡浪江町産のブランドニンニク「サムライガーリック」などを使ったプレミアムバーガーを880円で発売しています。パティに使われている牛肉は、福島県産黒毛和牛肉85%! これには「私も食べたい!」と思ってしまいます。
また、モス名物のテリヤキバーガーやモスバーガーに使用されるレタスやトマトは、協力農家さんの名前が店頭の看板などに記載されており、生産者の顔が見える安心感があります。ハンバーガーというファストフードも、モスの新鮮野菜と一緒に食べれば罪悪感が薄れるといった効果があると思われます。2026年現在は、鮮度を極めた「朝採れ野菜」の使用店舗を拡大。他チェーンの野菜とは明らかに違うという差別感は、価格差を納得させる材料になるのではないでしょうか?
さらにマクドナルドがタイパ重視の顧客層にアピールしているのに対して、モスバーガーは、注文を受けてから作るアフターオーダーという贅沢なスタイルを頑なに守っています。
モスバーガーで価格転嫁がネガティブな話題になりにくい理由は、いいものを食べているという安心感、丁寧に扱われているという自尊心、ゆったりとした時間が流れるという贅沢、これらのような体験が価格以上の満足感につながっているからといえるのではないでしょうか。
支払っているのは「食事代」だけではない
こうして両社をみてみると、わたしたちが支払っているのは、もはや単なる食事代ではないことがわかります。
例えばマクドナルドを選ぶとき、わたしたちは無駄のない時間と計算された満足感を買っているとも言えます。一方で、モスバーガーを選ぶとき、わたしたちは自分を大切に扱っているような時間や生産者との繋がりが見えてきます。どちらが優れているかではなく、一人の同じ消費者が、その時の気分や状況に応じて、この二つの価値を主体的に使い分けている。これこそが、インフレ下における成熟した消費の姿ではないでしょうか。
かつて、安さだけが目立っていたデフレ時代。わたしたちは価格に縛られ、選ぶ自由を奪われていたのかもしれません。しかし今、たとえランチが1,400円になったとしても、応援したい店に、正当な対価を払うという新しい文化が芽生えています。値上げという荒波の中で、魔法が解けて消えていく店もあれば、より輝きを増して行列を作る店もあります。その違いは、顧客の「脳」を満足させるか、あるいは「心」を温めるか。そのどちらかの価値を、圧倒的な熱量で提供し続けられるかどうかにかかっています。
本来ならば、値段を気にせずその時の気分で好きなものを選びたいですが、限られた予算の中ではメリハリが大切です。投資家としても、今後は同じ業界の会社でも、大きく明暗が分かれる局面となりそうです。マクドナルドやモスバーガーのように、消費者の求める「価値」を提供できている会社をしっかり選びたいですね。
このように投資先を検討するうえでは、各企業の戦略をより深く知ることが重要です。
日本経済新聞で最新の業界動向を追い、会社四季報で業績の推移を確認し、さらに企業のホームページで最新のIR資料をチェックしてみてください。
数字の裏側にある「その企業が提供している価値の本質」を読み解くことこそが、いつの時代にも投資の第一歩となるはずです。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2026年3月9日時点の情報に基づきます。
※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。
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