金融・投資

2024.02.22

本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

キリオフィス代表、株式投資スクール講師、CFPファイナンシャルプランナー。個人投資家として2010年より株式投資をはじめ、5年で資産を10倍に増やす。数字オンチの人も含め普通の人が趣味として楽しめる株式投資を広めるため、講師、講演者、パーソナルトレーナーとして活動中。講座は特に女性に人気で、毎回キャンセル待ちが出るほど。著書に「月収15万円からの株入門 数字オンチのわたしが5年で資産を10倍にした方法」「ド文系女子の株の達人が教える 世界一楽しい!会社四季報の読み方」(https://www.amazon.co.jp/dp/B09PB1FT8H/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1)など。
YouTube:藤川里絵の女子株CH『はじめの一歩』 - YouTube(https://www.youtube.com/channel/UCrsiRmd8Bq7CmaXljd8PDKw

Introduction

各種マネー雑誌や書店の株式本コーナーを見ると、その時々で人気の投資テーマが分かります。今は、文句なしで“高配当株”が上位に上がります。とあるマネー雑誌の編集さんに、“高配当”とタイトルにつけると売上が確実に伸びると聞きました。
“高配当株”の定義はハッキリしていませんが、企業が株主に対して支払う配当金の割合が高い銘柄のことを指します。高配当株投資という手法がこれほどフィーチャーされている理由はふたつあります。
(1)2024年より新NISAがスタートしたことで、株式投資自体に注目が集まる中、初心者さんでも、比較的安定して収益を得られる高配当株にスポットが当たったため
(2)東証プライムなど、現在上場している市場の維持基準を満たすため、株主還元を意識した増配が増えたため
たとえば東証プライム市場の上場維持基準を満たすには、条件のひとつとして、流通時価総額が100億円以上が上げられています。流通時価総額は、流通している株数と株価の掛け算なので、現状満たしていない企業は、どちらかの数字(または両方)を大きくする努力が必要です。その対策として、増配によって投資家を惹きつけ、株価を上げる企業が増えているのです。
少し強引な荒技ですが、配当は、企業が生み出す純利益から出されるものなので、配当を増やすためには、利益を伸ばす努力が必要です。増配するために、利益を伸ばすか、利益が伸びたから増配するか、「にわとりたまご理論」になりますが、いずれにしろ投資家にとって増配は魅力的です。
実際、新NISAがスタートした1月のSBI証券でのNISA成長投資枠残高ランキングは、1位JT、2位NTT、3位三菱UFJフィナンシャルと、高配当銘柄の王道が並んでいます。NISA口座では、長期投資が基本ですから、継続的に安定して高配当が望める銘柄を選ぶ人が多いようです。

高配当株を見極めるための指標とは?

高配当であるかどうかを測る指標として、まず最初に挙げられるのが「配当利回り」です。一般的に高配当と呼ばれている銘柄は、配当利回りが高いものを指しています。
配当利回りは「株価÷1年間の配当金×100」で計算され、だいたい3%以上あれば高配当と言えるでしょう。ちなみに1位のJTは現時点の株価で計算して、配当利回り4.7%。低金利の日本で、4.7%の利回りが得られるのはたしかに魅力的です。
ほかには「配当性向」と呼ばれるものがあり、これは企業が配当として株主に支払う純利益の割合を示す指標で、日本企業の平均は30%程度です。最近は、配当性向を明確化する企業が増えており、なかには40%、50%と高い配当性向を宣言する大胆な企業もあります。今まで、利益剰余金として内部留保する企業が多かったのですが、物言う株主から「溜め込むくらいなら、株主に還元せよ」といった圧が強くなり、それが反映されつつあるようです。
最近は「DOE」という指標も意識されるようになっています。DOEは、Dividend On Equityの頭文字を取った言葉で、株主資本に対する配当の割合を示す指標です。株主資本は、純資産とほぼほぼイコールですが、その期の特別利益や損失に影響を受ける純利益よりボラティリティが低いので、配当性向よりもDOEを重視する企業や投資家も増えています。
余談ですが、最新の四季報新春号の特集企画はDOEでした。日本企業のDOEの中央値は2%程度です。現状、DOEを掲げている企業はまだ限られてますので、掲げている企業は株主還元の意識が高いと評価することもできます。また、株主資本が急激に減少するリスクはかなり小さいので、減配のリスクも低く、配当目的の長期投資では心強い指標となります。
そのほかにも「連続増配」や「累進配当」といった言葉もよく聞きます。連続増配は、その名前の通り、毎年配当金を増やしていることで、日本では33年連続増配をしている花王がトップです。連続増配株は、業績が外部環境に左右されにくいビジネスを展開していることが多いため、その点でも評価されています。
一方の累進配当は、原則として減配をせずに配当維持か増配を行う配当政策のことです。“何々ショック”のようなブラックスワンイベントが起こっても、とりあえず減配はしないという方針があったりするので、株価下落も比較的軽微で済みそうです。

よくある失敗…高配当株投資の落とし穴

高配当株が人気の理由は、高い配当金が安定的に入ってくることが期待されているからです。ということは、高い配当金が受け取れなくなると、投資家にそっぽを向かれます。そうなると配当金は減るわ、株価は下がるわのダブルパンチとなります。NISA枠でそういった銘柄を買っていると、損失が出ても損益通算できないため、さらにいいことなしの残念な結果に。そうならないためには、ハズレ高配当株を選ばないことが重要です。
いちばん失敗しがちなのは、配当利回りの高さだけで選んでしまうことです。先述したように配当利回りは、株価÷1年間の配当金×100で決まるため、株価が下がれば利回りは上がります。利益確定売りや、相場全体が軟調で株価が下落しているタイミングで株価が下がるのであればよいのですが、その企業のビジネス自体に何か問題があって下がっているとしたら、その後、業績は悪化し、ますます株価は下落、さらには減配、最悪の場合は無配になる可能性もあります。そうならないためには、配当利回りの高さだけを見るのではなく、業績や財務内容までチェックしたほうがよいでしょう。少なくとも減益が続いている企業は、いくら配当利回りがよくても避けたほうが無難です。
直近、高配当株として個人投資家にも人気が高かったあおぞら銀行が、業績悪化に伴い、年間配当を154円から76円へ下方修正しました。その発表翌日の株価はストップ安となり、配当目的で買っていた投資家さんにとっては青天の霹靂です。このような事態に巻き込まれないためにも、購入前の業績の確認はもちろんのこと、購入後も、決算ごとに変化はないかチェックしておきましょう。健康診断と同じで、早期発見であればダメージも小さくて済みます。
個人的には、連続増配のキングとして揺るぎない地位を確立している花王もここ最近の業績悪化を鑑みると、安心して買えないと思っています。配当の原資は、あくまでも企業の利益ですので、今までの実績だけでは100%の安全保障ではないのです。

買うタイミングにも注意が必要

配当金は、株主として権利確定日に株式を保有していないと配当金は受け取れません。そのため、お目当ての企業の権利確定日の確認は必須です。この際の注意点としては、権利確定日に株主名簿に記載されていなくてはならないので、その2営業日前に株式を購入していなくてはいけません。たとえば、今年の3月末が権利確定日の銘柄なら、最終営業日の29(金)が権利確定日なので、その2営業日前の27(水)までに株式を購入している必要があります。
高配当で人気の銘柄の場合、権利確定日前は株価が上昇し、権利確定日以降は株価が下落する傾向があります。権利確定日直前に購入してしまうと、割高な株価で買って損する場合もあります。また、配当利回りは、自分が購入した株価で変わるので、高値で買ってしまった場合は、配当利回りが低下してしまうことも踏まえて、購入のタイミングを測りましょう。

老後の資産形成には不向き

安定して配当金を受け取れるのはうれしいですが、老後の資産形成を目的とした投資には不向きです。複利の効果を最大限に活かして、長期投資で資産を増やすためには、できるだけ種銭を増やす必要があります。配当金を受け取って、それを再投資すればよいのですが、課税口座であれば、配当金を受け取るたびに税金が引かれますし、再投資する手間がかかります。NISA口座であっても、再投資の手間は省けません。
一方、配当金でちょっとした贅沢や、思い出作りなどを楽しみたい人には、高配当株投資はもってこいだと思います。とくに低金利の日本では、株式を保有する優位性は高いので、資産の一部を高配当株に振り分ける旨みは充分期待できるでしょう。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2024年2月20日時点の情報に基づきます。
※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。
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