本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
業績は良いのに株価が上がらないのはなぜ?
投資をしていると「なぜこんなに業績が良いのに株価が下がるの?」と頭を抱える場面があります。今まさにそれを体験している代表的な銘柄群が、コンテンツ・IP関連株です。
経済産業省によると日本発コンテンツ関連の海外売上高は2023年に約5.8兆円と半導体産業と同程度の規模になり、2013年からの10年間で約3.6倍になっています。これほど成長著しい産業なのに、2025年秋以降に人気コンテンツ株は軒並み下落トレンドに入りました。
では、今の状況はどう読み解けばいいのでしょう? 「マクロ(市場全体)の要因」と「個別企業の要因」に分けて整理してみます。
マクロ要因――コンテンツ株から半導体株へ、投資資金がお引越し
2025年初めから2026年4月下旬までにTOPIXは約44%上昇した一方、日経半導体株指数に連動するNF・日経半導体ETF(200A)は3.3倍になっており、半導体セクターへの資金集中ぶりが見て取れます。日経平均が6万円を超える歴史的な上昇局面を作ったのはAI・半導体関連株で、それ以外のセクターから資金が抜けていったのです。
いわば、資金が「コンテンツ株という家」から「半導体株という家」に引っ越した状態です。業績が悪化したからではなく、もっと魅力的に見える場所にお金が流れた――これがコンテンツ株全体に重くのしかかっているマクロ要因です。
もう一つのマクロ要因はバリュエーションの調整です。任天堂のPERは、2025年8月には50倍以上に上昇していました。同年6月に8年ぶりに発売されたSwitchの新モデル「Switch 2」は、発売後わずか4日間で世界累計販売台数が350万台を突破し、任天堂のゲーム機として史上最速の立ち上がりを記録、その後も発売7週間で600万台以上のセルスルーを達成しました。
それらの実績もあり、同社への期待がますます株価を押し上げ人気に拍車をかけていました。しかし、2026年5月にはPERは25倍前後にまで低下。高成長への期待が先走って株価が上がりすぎた反動が、今の調整局面につながっています。
個別要因① 任天堂(7974)――AIが「まさか」の敵に
任天堂は今まさに、複合的な逆風にさらされています。
5月8日に発表された2026年3月期の業績は、Switch 2効果で売上高が前期比98.6%増の2兆3,130億円、営業利益が同27.5%増の3,601億円と大幅な増収増益でした。
しかし、2027年3月期予想は、売上高は前期比11.4%減の2兆500億円と減収予想、営業利益は前年比2.7%増の3,700億円とわずかな増益見通しとなっています。
1.ハードウェアの反動減
Switch 2の販売台数予想が、前期1,986万台→当期1,650万台と16.9%の減少見込みです。これは前期が異例の水準だったためやむなしとも言えます。
2.メモリ高騰+関税による原価圧迫
決算説明書によると「メモリを中心とする部材価格の高騰や関税措置等に伴う原価への影響として約1,000億円を織り込んでいる」とあります。AI需要の爆発的な拡大によって、データセンター向けのDRAMやNAND型フラッシュメモリの需給が逼迫し、ゲーム機向けのメモリ調達コストも大幅に上昇。これはしばらく継続すると見ているようです。
3.Switch 2の値上げによる需要抑制リスク
日本では5月25日から1万円値上げ(49,980円→59,980円)、米国・欧州でも9月から値上げを実施します。古川社長は「購入のハードルを一定程度上げることになる」と認めており、この影響が販売台数予想の保守的な設定に反映されています。
Switch 2の発売初年度からの反動減は仕方ないとしても、AI革命がまさかの形でコスト増圧力となって任天堂を直撃しており、これが何より株価の上値の重さになっているのです。
個別要因② サンリオ(8136)―― 期待値の壁+ガバナンス問題
サンリオは任天堂とはまた異なる構図で苦しんでいます。
業績自体は決して悪くありません。26年3月期の売上高は前年同期比31.5%増、営業利益は前年同期比45%増の見通しで、圧倒的な成長率を続けています。それでも株価は2025年8月の高値から半値近くまで下落しています。
理由の一つは「期待値の壁」です。サンリオは良い決算を出し続けているにもかかわらず、市場が期待するもっと良い決算に届かないという状態が続いています。株価はすでに将来の成長を織り込み、高い水準まで上昇していました。そのため、予想を下回る部分が少しでも出ると売られやすい構造になっていたのです。
そして2026年5月にはより深刻な問題が浮上。常務による不適切報酬問題の発覚と、それに伴う決算発表の延期です。上場企業には透明性と適切なガバナンスが強く求められます。ハローキティやシナモロールといった強力なIPを持ちながら、足元のガバナンス問題が投資家の信頼を損ねており、業績の良し悪しとは別次元の課題が株価の重石になっています。
個別要因③ KADOKAWA(9468)――ヒット作不足と構造改革の痛み
KADOKAWAの場合は、より業績面の問題が直接的です。2026年3月期の営業利益は81億円と前年度比でほぼ半減する急減益を記録しました。
背景には複数の要因があります。出版・IP創出事業での国内書籍販売の低迷、アニメ・実写映像事業での大型作品不足、さらにサイバー攻撃による特別損失も響きました。「エルデンリング」という大ヒット作を持つゲーム事業も、前年の高水準には届かず減益です。前中期経営計画の目標が未達に終わったことも明らかとなり、投資家からやや失望された感は否めません。
コンテンツ株は「売り」なのか
では、コンテンツ株は「売り」なのでしょうか。わたしはそう思いません。むしろ、長期投資の視点では、買いやすくなってきた局面と捉えています。2025年のIPフィーバーから比べると、PERで見ても割高感が薄まり、買いやすい水準まで落ち着いてきています。
一方で、日本のコンテンツ産業の競争力が衰えたわけではありません。「ポケモン」「ワンピース」「ちいかわ」「エルデンリング」――これらは世界中で愛されるIPです。
高市政権が定めた官民で重点投資する17分野にはコンテンツ産業が含まれており、2033年までに海外売り上げを20兆円まで拡大させる目標も掲げられています。国策としての後押しも期待できます。
大切なのは、今の株価下落の理由を正確に把握することです。
マクロによるものなのか、個別企業の業績悪化なのか、はたまた一時的なガバナンス問題なのか――原因によって、投資判断はまったく変わります。
下がっているからといって一律にダメ銘柄と切り捨てるのではなく、下落の中身を丁寧に読み解く。それが、割安な優良銘柄を見つける個人投資家の醍醐味でもあります。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2026年6月8日時点の情報に基づきます。
※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。
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