金融・投資

2024.01.18

本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

キリオフィス代表、株式投資スクール講師、CFPファイナンシャルプランナー。個人投資家として2010年より株式投資をはじめ、5年で資産を10倍に増やす。数字オンチの人も含め普通の人が趣味として楽しめる株式投資を広めるため、講師、講演者、パーソナルトレーナーとして活動中。講座は特に女性に人気で、毎回キャンセル待ちが出るほど。著書に「月収15万円からの株入門 数字オンチのわたしが5年で資産を10倍にした方法」「ド文系女子の株の達人が教える 世界一楽しい!会社四季報の読み方」(https://www.amazon.co.jp/dp/B09PB1FT8H/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1 )など。
YouTube:藤川里絵の女子株CH『はじめの一歩』 - YouTube(https://www.youtube.com/channel/UCrsiRmd8Bq7CmaXljd8PDKw

Introduction

先日、9月15日に会社四季報秋号が発売されました。定期購読しているわたしのもとには、前日14日の夕方に届きましたので、その日の夜は、全銘柄に目を通す“四季報ナイト”を実行しました。このタイミングでは、さらっと全体の雰囲気をつかむのが目的ですので、これからじっくり時間をかけて記事欄など読み込んでいこうと思います。

会社四季報でいちばんお得感のある秋号

会社四季報は、その名の通り、年に4回発売されます。いちばん売上がよいのが夏号だと編集部の方に聞いたことありますが、個人的にもし1冊買うならおすすめしたいのは秋号です。なぜなら、秋号では、四季報予想が会社予想を上回る“独自増額”が多くなりやすいからです。
“独自増額”をもう少し補足説明しましょう。会社四季報には、会社が公式に出している今期の予想値と、会社四季報が独自で出している予想値があります。日本の上場企業では3月期決算銘柄が2,300社ほどあり、それらは夏号と秋号の間に第1四半期決算を行います。ですので、秋号では、企業の第1四半期決算の数字を加味して忖度ない予想値を出します。しかし企業サイドは、第1四半期決算の数字がよくても、まだ4分の1しか終わっていない段階で通期予想の上方修正を出すのは躊躇します。そこで、四季報予想と会社予想の乖離が起きやすいのが秋号になります。会社予想よりも四季報予想の営業利益が強気な数字をつけることを“独自増額”といいます。
実際、巻頭にある見出しランキングでは、秋号に“独自増額”が上位にくることが多いです。ちなみに一年前に発売された2022年秋号では3位(122社)、そして今回の秋号では5位(119社)で、やはり秋号では”独自増額”される銘柄が多いことが分かります。
“独自増額”されている銘柄は、その後、企業が会社予想を上方修正する確率が高くなります。上方修正が発表されると、株価がそこで一段アップすることが多いため、その値上がりを見越した先回り投資のチャンスが秋号にはたくさんあるということです。四季報初心者の方は、まずは見出しに”独自増額”とある銘柄にフォーカスしてもよいでしょう。
もしくは欄外に“ニコちゃんマーク”がふたつある銘柄をチェックするのもおすすめです。ニコちゃんマークは、会社の営業利益予想より四季報の予想のほうが強い場合につくマークで、乖離率が3%~30%未満ならひとつ、30%以上ならふたつつきます。ふたつの場合は、その後、会社が上方修正する確率はかなり高まります。

わたしが見つけた先回り銘柄

今回の四季報秋号をざっとみたところ、食品セクターの好調を感じました。去年は原材料価格の高騰や、円安に伴う輸入価格の上昇で非常にきびしかったセクターですが、複数回による値上げで利益率が改善し、業績好調の銘柄が目立ちました。巻頭の業種別業績展望によると、食料品セクターの営業利益の今期予想は10.9%と二桁増益になっています。
そこで食品セクターから上方修正を先回りできそうな銘柄をふたつ紹介します。
◎昭和産業(2004)
1社目は、製粉、油脂食品を二本柱とする食品メーカーの昭和産業(2004)です。設立されたのは1936年なので、なんと創業83年の老舗企業。2024年3月期の会社が発表している営業利益予想は75億円ですが、四季報予想は110億円と46%も乖離しています。記事欄には【V字回復】の見出しがついており「価格上昇で採算が急改善」とあります。さらに「営業益、純益は会社計画を上回ることが濃厚」とかなり確信めいた文面も。昭和産業は、創業以来初の抜本的な営業組織改革を行っており、それが功を奏しているようです。
四季報の2023年新春号から、2024年3月期の営業利益予想を追ってみると54億→58億→75億→110億と3ヶ月ごとに予想が増額されており、よっぽど好調なのが分かります。
◎丸大食品(2288)
2社目は丸大食品(2288)、ご存じハム・ソーセージの加工食品大手です。じつはハム・ソーセージは飼料コストや光熱費の高騰でいまだ厳しい状況ですが、サラダチキンなどコンビニ向けのオリジナル商品が好調です。会社の営業利益の通期予想は15億円ですが、四季報予想は20億円で、ニコちゃんマークがふたつついています。
じつは、この会社は7月31日に上期の予想を上方修正しています。通期予想は据え置いていますが、修正理由が、売上高の伸張と、継続的なコスト削減という企業努力によるものなので、おそらく下期以降も好調は続くと思われます。となれば、通期予想の上方修正は期待できるのではないでしょうか?
丸大食品の2024年3月期の四季報が出した営業利益予想は、春号で-4億円の赤字から、夏号で15億円に黒字転換、秋号ではさらに20億円と増額されています。赤字から黒字転換のダイナミックな変化は、株価を上昇させます。事実、下落基調であった株価は、上方修正が発表された翌日から反転し、上昇トレンドがスタートしたように見えます。今後、思惑通りに通期予想も上方修正されれば、さらに株価上昇の追い風になりそうです。

秋の夜長、欲望を捨てて読み耽る

会社四季報を手に取る人の多くは、「上がる株を見つけたい=利益を取りたい」という欲望のもと、ページをめくっていると思います。もちろん、わたしもその一人ですが、いったんその欲望は脇に置いといて、ただ単純に読み物として読むことをおすすめします。四季報の記事欄には、すぐには利益に結びつかないかもしれませんが、「へぇ~」と思わず声が出るような豆知識が散在しています。いくつか紹介しましょう。
・コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス(2579)「自販機での販売で売れ行きなどに応じ値段変わる価格変動制の導入検討」

・ほぼ日(3560)「創業者の糸井社長が保有株の一部を役員、正社員、契約社員、バイト等190人に1人100株贈与。一体感熟成」

・JVCケンウッド(6632)「銃乱射事件多発受け米国で無線機需要が急増」

・シード(7743)「持続的に花粉症抑制薬剤を放出するソフトレンズの治験開始」

・ナルミヤ・インターナショナル(9275)「今年秋「ムーミン」コラボのベビー用品を発売」

・スカパーJSATホールディングス(9412)「有料放送の会員減少止まらず、が、宇宙は航空機Wi-Fiや通信機器販売の拡大が想定超」

・藤田観光(9722)「新宿の旗艦ホテルは欧米の個人レジャー客で絶好調。稼働率は9割、客室単価はコロナ前超え」
どうですか? つい誰かに話したくなるような小ネタがいっぱいつまっているのが四季報の魅力です。秋の夜長を利用して、四季報の記事欄を網羅すれば、雑談スキルが一気にアップすること間違いなしです。

あらためて投資家であるべきと実感

秋号を読んであらためて思ったのは、投資家であってよかったということです。なぜなら、秋号で好調だったのは、食品、ガス・電力など値上げにより売上利益が伸びているセクターだからです。
これらは消費者目線で見ると、可処分所得を減らす憎き企業です。四季報の中にもチラチラと“節約志向”という言葉が出てきました。消費者のヒモは固くなっているようです。当然、わたしも消費者なので、値上げはツライのですが、一方で投資家であることで、値上げによって業績が伸びる企業の株を買って、利益を享受することができます。
日本は、長く続いたデフレ時代から、ついにインフレ時代へと変化しつつあります。インフレに負けない家計を作るためにも、投資力は必要だとあらためて感じました。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2023年9月26日時点の情報に基づきます。
※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。

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