金融・投資

2024.01.18

本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

藤川 里絵(ふじかわ りえ)さん

キリオフィス代表、株式投資スクール講師、CFPファイナンシャルプランナー。個人投資家として2010年より株式投資をはじめ、5年で資産を10倍に増やす。数字オンチの人も含め普通の人が趣味として楽しめる株式投資を広めるため、講師、講演者、パーソナルトレーナーとして活動中。講座は特に女性に人気で、毎回キャンセル待ちが出るほど。著書に「月収15万円からの株入門 数字オンチのわたしが5年で資産を10倍にした方法」「ド文系女子の株の達人が教える 世界一楽しい!会社四季報の読み方」(https://www.amazon.co.jp/dp/B09PB1FT8H/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1)など。
YouTube:藤川里絵の女子株CH『はじめの一歩』 - YouTube(https://www.youtube.com/channel/UCrsiRmd8Bq7CmaXljd8PDKw

Introduction

「2023年7月は観測史上もっとも暑い月になる」と世界気象機関(WMO)が見通しを発表し、国連のグテーレス事務総長は、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代(the era of global boiling)が来た」と述べたことが世界中をざわつかせました。
その言葉を証明するかのように、異常な猛暑で、カナダやギリシャ、そしてハワイでも大規模な山火事が発生しています。
言うまでもなく地球温暖化の要因は、温室効果ガス排出によるものなので、各国が脱炭素化のスピードをより加速させなければいけません。
そこで今、世界各国で注力されているのが、EV(電気)自動車の普及です。EV自動車はバッテリーに蓄積した電力でモーターを回します。そのため走行中の排気ガス排出がまったくなく、地球温暖化や大気汚染対策などに有効です。

世界の今後のEV自動車普及率

イギリス、ドイツ、フランスなどでは、2030年、2040年までにはガソリン車やディーゼル車の新車販売が禁止されます。日本では、2035年までに新車販売でEV自動車100%の実現を掲げています。ボストンコンサルティンググループは、35年の世界新車販売に占めるEV自動車の比率を59%と予測しており、急速なEV自動車への移行が予想されます。

出遅れている日本でもお尻に火がついた!

日本のお家芸ともされている自動車産業ですが、残念ながらEV化の波には乗れていません。2022年の乗用車全体に占めるEV自動車の販売比率は1.71%。失笑してしまうほどの数字ですが、前年は0.59%ですから、これでもがんばっているのです。ちなみに中国は20%、欧州は10%、アメリカは5%なので、日本の出遅れ感が際立ちます。ハイブリッド車が優秀すぎて、EV化への取り組みが遅れてしまったのは皮肉な現象ですね。
ところがここにきて、自動車メーカー各社が、EV化へ本気を出してきました。
トヨタ自動車は、「2030年までに30種類のEV自動車のラインアップを用意し、年間350万台の販売を目標とする」と発表しました。トヨタの2021年のEV自動車販売数は1万5千台くらいですから、かなり大胆な目標です。
日産自動車は、「2030年までに15車種のEV自動車展開」を目標にしており、今後5年間で約2兆円の投資を行う予定です。
本田技研工業は、今後10年間で、EV自動車や関連するソフトウエアの研究開発などに、約5兆円を使い、EVメーカー化を目指すとしています。

EV自動車普及はそれほど簡単ではない

EV自動車は、バッテリーが高価なため、ガソリン車よりも車両価格が高く、それが普及のスピードを抑える要因のひとつです。販売台数がまだまだ少なく、利益率が低いため、価格が高くても利益が取れていない自動車メーカーが多いのが現実です。
また、EV自動車はガソリン車に比べて部品が少ないため、参入障壁が低いとされています。たとえばSONYやアップルなど、自動車メーカー以外の企業も、EV自動車への参入を発表しています。
それによって、戦々恐々としているのが自動車の部品メーカーです。今後EV化が進むと、必要となくなる部品が出てきます。不要な部品だけを作っていると企業の先行きは真っ暗。EV化に向けて新たな戦略が必要です。

EV化は脅威でもありチャンスでもある

自動車関連の決算資料を読んでいると、EV化を脅威であるとしつつも、大きなチャンスと捉えている企業が目立ちます。100年に一度の大変革と言われる今、EV化の波に乗れるかどうかは企業の存続に直結します。ここから急伸する企業、衰退する企業、きれいに二極化するのではないでしょうか? 
自動車とか機械にはめっきり弱く、今まで自動車関連株を売買したことはほとんどありません。しかし、今後、ほぼ確実にシェアを広げていくEV自動車を無視することは、投資家として居心地が悪く感じます。四季報や各社の決算説明資料を読んでいると、素人なりに見えてくるものもありました。

狙うはグローバルニッチ企業

日本には、実に多くのグローバルニッチ企業が存在します。グローバルニッチ企業というのは、世界的に活躍するニッチな分野で高シェアを誇る企業です。時価総額が100億円程度の地方企業が、世界を股に活躍しており、それはそれはワクワクします。
EV関連で物色していて見つけたグローバルニッチ企業を紹介しましょう。
・フコク(5185)
ワイヤーやブレーキなど自動車用のゴム製品メーカー。主力はワイパーブレードラバーで、国内ではシェア90% 、世界シェアでも50%を占めており、2020年グローバルニッチトップ企業100選にも選定されています。
EV自動車でもワイパーは必要ですから、その点の安定感は持ちつつ、EVバッテリーの性能を向上させる放熱ゲルの開発に挑み、今後の量産化を目指しています。
・小田原エンジニアリング(6149)
モーター用自動巻線で国内首位、世界2位。1979年創立の老舗企業ですが、企画力・提案力・開発力にすぐれ、あらゆる種類のモーターに対応できる巻線技術を有します。同社のホームページには、さまざまな銅線が巻かれるノリノリのイメージビデオ(https://odawara-eng.co.jp/business/feature/)が掲載されており、機械の美しい動きに魅了されます。
直近の決算では、海外向けのEV用全自動モーター巻線システムが好調で通期予想の上方修正を行なっています。
・日本セラミック(6929)
鳥取に本社をかまえるセンサーメーカー。赤外線センサーで国内約9割、世界約6割のシェアを持ち、超音波センサーでも世界的に有力です。自動車のEV化が進むにつれ、EVモーター制御のインバータ向け電流センサーの需要が伸びています。
JMC(5704)
3Dプリンター出力、鋳造、CTの3事業を展開するものづくりサポート会社。主力の鋳造事業で、EV用の開発受注が急増しています。今後の成長を見越して、国内最大規模の鋳造工場を建設中。
鋳造は、古くは弥生時代から使われていた伝統工法で、長い間時間をかけて培われてきた職人の技術に、同社のデジタル技術が合わさり、高品質な製品が作られています。まだ試行錯誤のEV化で、同社の精密な鋳造技術が評価されているようです。
他にもEV化にともなって大きく飛躍しそうな企業はたくさんあります。まだ利益に寄与できる段階ではないものの、今後数年で急拡大し、株価が何倍にもなる大化け株が出てきても不思議はありません。
自動車のEV化は、車を持たないわたしの生活には、まったくと言っていいほど影響がありません。株式投資をしていなければ、これほど真剣にリサーチすることもないですし、そもそも興味を持たなかったでしょう。
株式投資の喜びは、利益を得るだけでなく、知らない世界を知れるところにあります。ぜひその喜びをみなさんにも感じてほしいと思います。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2023年8月20日時点の情報に基づきます。
※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が個別企業の紹介、特定の個別銘柄の推奨、または取引の勧誘をするものではありません。

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