本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
Introduction
「Sell in May and go away(5月に株を売って市場から離れろ)」という相場格言をご存じでしょうか?株式市場には、特定の月に特定の傾向が表れやすい「季節アノマリー」と呼ばれる現象があります。たとえば日本では「辰巳天井、午尻下がり」「節分天井、彼岸底」「年末高、掉尾の一振」といった相場の言い伝えも有名です。これらは投資の決定打ではないものの、マーケットの潮目を読むうえでのヒントになります。
5月相場にまつわる代表的なアノマリーが、今回のテーマ「セル・イン・メイ」です。特に2025年の春相場は、地政学リスクや金融政策の不透明感など複数の要因が重なり、例年以上にこのアノマリーが注目されています。
「Sell in May」とは?
「Sell in May and go away. Don't come back until St Leger Day(5月に売って、セントレジャー・デーまで戻ってくるな)」という格言は、18世紀のイギリス、特にロンドンの金融街で使われ始めたとされています。 当時の貴族や銀行家、商人たちが5月になると株式を売却し、夏の間は都市の暑さを避けて田舎で過ごし、9月のセントレジャー・ステークス(1776年に創設されたイギリスの有名な競馬の一つ)に合わせて市場に戻ってくるという習慣に由来しています。最近では、「Don't come back until Halloween」と言われることが増えており、これは時代の変化とともに、より現代の投資家に分かりやすくなったバージョンだと考えられています。
過去の統計を見ると、1990年から2023年にかけて、米国のS&P500指数は11月から4月の期間に平均約7%の上昇を記録しています。一方、5月から10月の期間では平均約2%の上昇にとどまっており、11月から4月の期間が5月から10月の期間よりも高いリターンを示す傾向があることを示しています。実際に、ハロウィーン後は、11月から年末にかけて「年末ラリー」や「サンタクロース・ラリー」などの上昇傾向が強く、投資家が戻るには適した時期です。日本でも同様に、5月以降の「夏枯れ相場」が意識されやすく、実需よりも心理的な要因で売られることもあります。
とはいえ、毎年必ずこのアノマリーが当たるわけではありません。肝心なのは「なぜ今年はセル・イン・メイが意識されるのか?」を見極めることです。
2025年春、なぜ「セル・イン・メイ」が注目されるのか?
2025年春の株式市場は、まさに不安定さを象徴する展開が続いています。発端となったのは、米国トランプ政権による新たな通商政策です。日本時間の4月3日午前5時、米国政府は輸入品全般に対して一律15%の関税を即時発動。さらに、中国やドイツ、日本など特定国には、最大25%の上乗せ関税を課すと発表しました。この強硬な措置により、米中間の貿易摩擦が再び激化。中国政府も即座に報復関税を発表し、国際市場は一気にリスクオフへと傾きました。
4月9日、日本時間13時1分にはこの関税が正式に発動され、世界中の株式市場が大きく反応。取引時間中だった日本株は、さらに一段安となり、日経平均株価の下げ率は3.9%となりました。
S&P500やナスダック100などアメリカ株も連日、大きく下落しており、ナスダックに至っては「弱気相場入り」と報じられる展開に。
背景には、米中対立の激化に加え、FRBの利下げ時期が依然として不透明なことや、日本国内でも日銀による追加利上げの可能性が意識されていたことが挙げられます。
ところが、状況は一変します。日本時間4月10日未明、米国政府は「対抗措置を講じなかった友好国に対する関税発動は90日間延期する」と発表。これにより市場心理は急速に回復し、NYダウは同日、史上最大の上げ幅となる2,900ドル超の上昇を記録しました。まさに「政策リスク」が直接マーケットを揺さぶる局面となったのです。
このような激動の相場環境では、投資家がリスク回避のために一時的に市場から資金を引き上げる、「セル・イン・メイ」的な行動が顕著になる可能性があります。5月はもともと相場が軟調になりやすい時期とされますが、今年は政策リスクや地政学リスクが複雑に絡むことで、その傾向がより強調されるかもしれません。
今、注目すべきセクターは?
市場が調整色を強める局面では、防御力の高い業種に注目が集まりやすくなります。
まずは、医薬品や生活必需品などのディフェンシブセクター。景気に左右されにくい業種であり、株価が比較的安定しています。とくに今期の決算では、物価上昇を価格転嫁できている企業が増えており、堅調な業績が期待されます。
次に、地政学リスクの高まりと原油価格の上昇観測を背景に、エネルギーセクターも再注目されています。ロシアや中東情勢の緊迫化、物流コストの上昇などを背景に、石油・ガス関連企業の利益改善が見込まれています。
また、リスクオフの中、円高へ向かうと考えれば、内需で業績のよい小売やサービス業も有望です。実際、4月の暴落時で逆行高したのは、神戸物産やニトリでした。次いで、国内でDX化を推進する企業も、外部環境の揺れにかかわらず、不可逆的に需要が高まると考えられるため狙い目だと思います。
一方で、最近まで市場をけん引してきたAI・テクノロジー関連株は調整色が強くなっています。エヌビディアなどのハイパフォーマンス銘柄が一時的な過熱感から売られており、AIブームの「踊り場」に差し掛かったという見方も出ています。
とはいえ、AIそのものの成長ポテンシャルに変わりはなく、長期的な視点では押し目買いの好機とも考えられます。
アノマリーは「参考値」、冷静な視点を
「セル・イン・メイ」はあくまで統計上の傾向であり、必ずそうなるとは限りません。むしろ、アノマリーに過度に依存するのではなく、市場のファンダメンタルズや企業業績をしっかり見極めることが大切です。
今後の相場では、6月のFOMCや日本企業の決算シーズンなど、再び材料が出そろう時期が控えています。5月は一時的に守りを固めつつ、次の投資機会に備える「静と動の切り替え期間」として捉えるとよいかもしれません。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2025年4月10日時点の情報に基づきます。
※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。
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