本シリーズ「投資スイッチ!」では、何気なく過ごしている毎日の中にも、実は投資先や株取引について考えるヒントがあるはず!という視点のコラムをお届けします。ヒントに気づくための“スイッチ”を一緒に入れてみませんか?
Introduction
物価高や世界情勢の混乱、米中関係の緊張など、先行き不透明な経済環境が続いています。そのため、株式市場ではアグレッシブな投資は敬遠され、逆に注目されているのは「堅実な利回りと安定成長」が期待できる「ディフェンシブ株」です。
ディフェンシブ株は、景気の波に左右されにくく、配当や収益の安定性が魅力。今回は、ディフェンシブ株の特徴から銘柄選びのポイント、日本市場で注目の企業を紹介します。
ディフェンシブ株とは?
ディフェンシブ株は「防御型・安定型」の株式を指し、生活に欠かせない商品やサービスを提供する企業が中心です。代表的な業種は医薬品、食品、電力・ガス、通信などで、景気変動の影響が小さいのが特徴です。
これらの企業は業績の落ち込みが小さく、減配や経営不振リスクが低いため、特に不安定な相場局面で投資家から支持されます。また、グロース株のように急成長は見込めませんが、安定配当と低ボラティリティによってポートフォリオの安定性を高めます。
ディフェンシブ株の銘柄選び、5つの視点で見るポイント
ディフェンシブ株を選ぶときは、「どの業界に属しているか」だけで判断するのではなく、企業ごとの中身までしっかり見極めることが大切です。長期的に持ち続けられる“堅実な銘柄”かどうかを見極めるため、以下の5つの視点から総合的に判断することが重要です。
①安定した収益基盤
景気後退局面でも、売上や利益が大きく落ち込まないかどうかがカギとなります。例えば医薬品や通信企業は契約や医薬需要が安定しており、収益予測が立てやすいです。「売上成長率」や「営業利益率の推移」を見ると安定性が見えてきます。
チェック項目例:
過去5年の売上・営業利益の推移
海外売上比率(海外展開での収益源が安定しているか)
② 高い配当利回りと持続可能性
配当利回りが高くても「一時的」な場合は要注意。企業の利益に対してどれだけ配当を出しているか(=配当性向)も確認が必要です。
配当性向は、純利益のうち何%を配当に回しているかを示す指標で、一般的に日本企業の平均配当性向は30%前後とされています。50%を超えると「やや高め」といえます。
たとえば、武田薬品は2025年3月期の配当性向が286.7%と異常に高い数字です。これは、利益よりも多くの配当を出していることを意味しており、なんらかの特殊事情がある場合がほとんどです。ちなみに武田薬品は、大型買収の負担や薬の開発費で一時的に利益が薄くなっているため、配当性向が高くなっています。こういった一時的な高配当性向の企業は、業績の安定性や、キャッシュフローの健全性も合わせてチェックしましょう。
チェック項目例:
予想配当利回り(4%以上が一つの目安)
配当性向の推移(安定していれば信頼性が高い)
配当方針(減配しない方針か、業績連動型か)
③ 財務の健全性
安定的に事業を継続するためには、健全な財務体質が必要。
負債が多い企業は金利上昇局面で負担が増えるため、自己資本比率や有利子負債の動向は必ず確認しましょう。
チェック項目例:
自己資本比率(目安:40%以上)
有利子負債比率(低い方が安全)
キャッシュフロー(営業CFがプラスか)
④ 生活必需性の高さと市場の安定性
人々の生活に欠かせない商品・サービスを提供している企業は、景気が悪くても需要が落ちにくく、業績への影響が限定されます。
通信(NTT)、電力(関電)、食品(日清食品)などはディフェンシブ株の一丁目一番地です。
また、市場が寡占状態にある企業は競争に強く安定収益を維持しやすいのも覚えておきましょう。
チェック項目例:
市場シェアの高さ(寡占・独占状態か)
製品やサービスの生活必需度(リピート性があるか)
⑤ 株主還元姿勢とESGの取り組み
安定志向の投資家には、株主還元に積極的な企業が好まれます。増配傾向や自社株買いの実績を確認しましょう。また、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する機関投資家が増えており、長期的な株価支援材料になります。
チェック項目例:
配当方針(増配継続の実績があるか)
自社株買いの履歴
ESG格付けや統合報告書の充実度
代表的なディフェンシブ銘柄
● 医薬品:武田薬品工業(4502)
執筆時点での予想配当利回り4.57%と高く、26年間減配なし。2015年には、純利益が赤字にもかかわらず減配しなかった実績があります。
後期臨床パイプラインが充実、効率化によるコスト低減で安定収益を確保。高配当を維持しながら将来商品への投資も並行しています。
● 通信:NTT(9432)
14期連続増配中。国内通信インフラで圧倒的シェア。IOWNなど先進研究にも注力しつつ、安定した配当と自社株買いを継続しています。200円以下の低位株のため、NISAの成長投資枠でも人気です。
●ITインフラ:SCSK(9719)
今期2026年3月期を含めると15期連続増配中。株価は、上場来高値を更新しており、とてもきれいな上昇トレンドです。約1000社以上を顧客に持つSI(システムインテグレーション)企業で、DX支援に注力。金融・製造・流通など複数業種をカバーし、収益基盤が広く分散されています。
- 中外製薬、アステラス製薬:製薬銘柄の中でも堅調な配当+研究開発力が魅力
- 電力会社(東京電力、関西電力など):規制下の安定収益構造+全国供給体制
- 食品(キッコーマン、日清食品):国内外でブランド力強く、景気に左右されにくい定番需要
ディフェンシブ株投資の際の注意点
ディフェンシブ株は、安定した収益や配当利回りを背景に「守りの投資」として評価されますが、決して万能な存在ではありません。
まず注意すべきは、景気回復局面や金融緩和によるバブル的相場では、グロース株に比べて株価上昇の勢いが劣ることです。短期的なリターンを狙いたい局面では、物足りなさを感じる場面もあります。また、金利が上昇すると、債券など他の安定資産との比較で配当利回りの魅力が薄れる可能性も出てきます。特に、高配当が注目される武田薬品のような銘柄でも、実際には利益以上の配当を支出している「配当性向200%超」の状態が続けば、将来的な減配リスクは無視できません。こうした点からも、ディフェンシブ株といえど単一銘柄への集中投資は避け、グロース株や他の資産クラスと組み合わせた分散投資が重要です。安定性と成長性のバランスを取ることが、長期的な資産形成の鍵となります。
ディフェンシブ株は、景気変動に強く、安定した収益と配当が期待できることから、「守りの投資」として長期保有に適した選択肢です。ただし、どんな相場でも万能というわけではなく、配当の持続性や財務の健全性、市場での競争優位性などを慎重に見極める必要があります。
特に武田薬品やNTTのように、業績・配当・株主還元のバランスが取れた企業は参考になります。また、近年注目が高まるESGの観点も加味しつつ、成長株との組み合わせによって、安定とリターンのバランスを取ることが、長期的な資産形成を成功させるカギとなるでしょう。
※本記事に掲載されている全ての情報は、2025年6月13日時点の情報に基づきます。
※あくまでも藤川さん個人の投資手法を説明するための例示および見解であり、ジャパンネクスト証券株式会社が取引の勧誘をするものではありません。
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